([本]のメルマガ vol.381より)

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■「 図書館の壁の穴 / 田圃兎 」
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第30回 カウンターだけでなく

図書館のレファレンスサービスを知っている人、利用したことのある人は、
どのくらいいるのだろう?
リピーターでなく、ユニークユーザー数で考えると、ちょっと恐ろしい数字
が出るかもしれない。

1年近く前、こんな新聞記事があった。

「民間手法で変わる公立図書館」(東日新聞2009年2月25日)
http://www.tonichi.net/news.php?mode=view&id=27051&categoryid=1

記事冒頭には

 「今年4月に指定管理者制度を導入する蒲郡市図書館(宮成町)で、
  利用者に図書案内するレファレンス(照会)サービスを行う。公立
  図書館では珍しく、民間手法によるサービス向上の例として注目さ
  れる。」

とある。

民間だからレファレンスができるという意味だとしたら、それはそれで問題
だが、そもそもレファレンスサービスの認知度が低いということが大いに気
になる。

レファレンスという言葉が浸透しないならばと「相談窓口」といったように
別の呼び方でレファレンスカウンターを設置する図書館もある。
だが、それで図書館は相談できる場だという認識が、一般にそれほど浸透し
たとも言えないように思う。

昨年の図書館総合展で農林水産研究情報総合センターのポスターセッション
を見ていて、ちょっとした気付きがあった。
それまでポスターを前に説明されていた図書館退屈男さんが、ホームページ
のデモをするためにPCではなくiPhone 3Gを取り出し、サクサクと説明して
くださったのだ。
http://toshokan.weblogs.jp/blog/2009/11/111-d16c.html
Webブラウザでできることは、大抵iPhone 3Gでも済むだろう。
それならWebブラウザで動作する図書館システムを導入すれば、カウンター
レスの図書館もあり得るかもしれないな、という気がした。

レファレンスサービスを広く展開するには、カウンターに篭っているだけで
は成果は上らない。
レファレンスを宣伝するといっても、ただでさえ情報が溢れているのだから
「レファレンスサービスとは?」などという情報をいくら流しても、なかな
か伝わるものでもない。
だったら司書がカウンターからフロアに出てみたらどうだろう?と漠然と考
えていたところを、何となくiPhone 3Gに後押しされたような感じがした。

ところで少し前に、レファレンスカウンターを廃止しようと書いた図書館員
がいた。

「待つ」をやめる(2009年02月11日)
http://blog.livedoor.jp/lib110ka/archives/51854753.html
「待つ」をやめる2(2009年04月07日)
http://blog.livedoor.jp/lib110ka/archives/51892511.html

エントリーをお読みいただけばわかるが、この方も待ちの姿勢でカウンター
に引きこもっていることに疑問を呈している。

別エントリーで、貸出返却の自動化などが進んだ先で、カウンターに閉じ篭
った司書は一体何をするというのか?ということも指摘されていたが、この
点は世間にそう思われて当然じゃないかという気はする。

蔵書を中心とした地域コミュニティの拠点になろう、という新しい図書館像
を最近多くの方々が仰っているし、僕自身も研修会などでそう述べてきた。

そうした今後の図書館のあり方を考えたときにも、司書の働く場所としてカ
ウンターと事務所だけでなく、もっとフロアに出ることを考えた方がいいん
じゃないかと思う。

             *  *  *

司書にとっては利用者サービス以外に選書と資料整理、それに蔵書管理が大
きな仕事だ。
選書と蔵書管理には、日々書架を見ることがとても重要なのだが、返却図書
を棚に戻す作業など、フロアの仕事をボランティアに委ねるケースも多い。
その結果、司書が棚をじっくりと眺める機会が減っている館もあるのではな
いだろうか?

司書がフロアに出ている時間をもっと確保すれば、実際に来館している人の
状況が、感覚としてわかるようになる。
そこで何かを探していそうな人がいれば、声をかけることもできるんじゃな
いかと思う。

ただ、その加減は難しい。
以前、インターネットの世界では、自分から情報を取りに行くプル型サービ
スに対し、相手から情報が押し出されて来るプッシュ型サービスというのが
話題になったことがある。
ネット上の情報発信はプッシュ型も良いが、来館者へのサービスは基本的に
はプル型の方がいいと僕は思う。

勤務先の図書館がオープンする前に、書架のところどころにボタンを付けて
おいて、利用者がそれを押すとランプが光り、カウンタースタッフが駆けつ
けるという仕組みを考えていたのだが、残念ながら予算が足らず実現には至
らなかった。
例えば、ファミレスやチェーン店の居酒屋によくある呼び鈴の導入なんかも
これからは少し考えてみても良いのかもしれない。

              *  *  *

レファレンスの知名度が低いのと同時に、司書の仕事内容も一般にはあまり
知られてはいない。
図書館員は、ただカウンターで貸出と返却を機械的に行うだけではないとい
うことを知ってもらうには、市民のために知識や経験を駆使して働いている
と直接感じてもらえるよう、積極的にフロアに出ることもひとつの方法だろ
うと思う。

フロアに出る機会を増やすメリットは、レファレンスサービスの浸透という
部分的な話ではなく、司書業務の可視化に繋がるかもしれない。
そういった意味で、ちょっと面白いブログを発見した。

県職員ブログ「秋田で元気に!」
http://akitapref.exblog.jp/

これは秋田県庁職員が共同で運営しているブログで、「全県に配置されてい
る県職員が広報パーソンとして地域の魅力をアピールすることができること
や、堅くて親しみにくいと言われがちの職員の普段の様子を伝えることで、
職員や業務に親しみを持ってもらうこともできる」ということで始められた
ものだ。
地域のニュースばかりでなく、県職員の仕事をわかり易く伝えているという
点は大いに参考になる。

利用案内やレファレンスサービスの宣伝以外に、こうした情報を発信してみ
るのも良いのかもしれない。
例えば研修報告などは内部で回覧してお終いにするのではなく、職員がこう
いう勉強をしてきましたと画像付きでアップしてもいいだろうし、休館日に
何か作業するような時には、その状況を写真と併せてアップしてもいいだろ
う。
何も無理に日記風にしてみたり、無闇に呼びかける広報風でなくていい。
長文である必要もない。
内部でこんなことをしているというのが伝わるだけでもいいと思う。

               *  *  *

例えば、わざわざ仕事の昼休みに本を探しに来館し、カウンターで尋ねたに
も関わらず、緩慢な対応で要領を得ないまま時間が過ぎていったら、その人
はレファレンスサービスを利用しようとは思わなくなるかもしれない。

どんな体験をしたかで、その次の行動が決まってしまう。
だから、本を無料で借りる以外の様々な図書館サービスを知ってもらい、レ
ファレンスへの期待を高めるためには、能力の高い司書こそ、管理業務に集
中するのではなく、フロアやレファレンスカウンターなど利用者に身近なと
ころへもっと出ることを優先させてみてはどうだろうか。
そこで、ちょっとした質問に対して、こんな資料もあります、こんな調べ方
もできますといった具合に、様々なサービスをさりげなく提示していければ、
貸出サービス以外の図書館の可能性を、多くの人に感じてもらえるようにな
るかもしれない。

だからといって、目指すところはレファレンスサービスが大盛況となること
ではない。
必要なときに、質の高いサービスが得られるということを、多くの人に知っ
てもらうことが大事なのだと、僕は思っている。

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お知らせ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
  CiNiiリニューアル記念ウェブAPIコンテストで優秀作品に選ばれた
 「結城市関連論文ナビゲーター」の作者、当館スタッフの牧野雄二君
  がブログをはじめました。

  「図書館+○○○」
   http://lib-plus.blogspot.com/

 「図書館にいろいろプラスしていくことを考えるブログ」だそうです。
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田圃
    http://d.hatena.ne.jp/t_rabi/
 公共図書館Webサービス勉強会(仮称)、現在13館20名で活動中です。
 理論より具体的なアクションに繋げることを意図した、現職図書館員によ
 るメーリングリスト。ビギナー大歓迎ですので、興味のある方はお気軽に
 ご連絡下さい。