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([本]のメルマガ vol.387より)
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■「図書館の壁の穴」/田圃兎
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3/10に「カーリル」というサービスが始まった。
オープニングイベント「夜の図書館ダイアローグvol.1」が開催され、IT
系のメディアでも多数取り上げられているので、ご存知の方も多いのではな
いかと思う。
これは、複数の公共図書館の蔵書とAmazonのデータベースを同時に検索す
るもので、本を検索するときに地名を入力すれば、そこから近い図書館を自
動で選択し検索してくれるという、相当に高機能な仕掛けのもので、探して
いる本が近くの図書館で借りられるかどうかがすぐにわかるシステムだ。
地名または緯度経度情報を元に、近い図書館を探すAPIの提供を予定して
おり、将来的には携帯電話のGPSを利用して、外出先から近くの図書館の蔵
書を検索できるモバイルアプリケーションも実現可能となるらしい。
(その他の機能等、詳しくはhttp://calil.jp/を参照。)
「カーリル」は、「紙copi」の開発などで知られる洛西一周氏がCEOを務
めるNotaという会社が運営しており、現職図書員からも、この「カーリル」
の機能を高く評価する声が相次いでいる。
公共図書館に着目してこうしたツールをつくっていただけたことはとても
嬉しいし、Amazonで本を探すのと同時に、複数の図書館の蔵書も検索できる
という、より生活導線に近いところに公共図書館の入り口が設けられたとい
う点、しかも全国4300以上の公共図書館に対応している点などが、僕は画期
的なことと感じている。
ただし現時点では、Amazonのデータベースにない本は検索対象外だし、
ISBNのない本は画面には「検索できません」と表示されてしまうので、図書
館OPACとイコールの検索結果が得られるものではない。
そうした仕組みであることが、いまひとつ画面からはすぐにはわかりにく
いので、ここでヒットしない本は図書館にないと思われてしまう不安も感じ
る。
実際に図書館にある資料で、しかも図書館OPACで探せばヒットする資料が
「検索できません」となることは、普段からAmazonで事足りると思う人にと
っては瑣末な話だろうと思いつつも、図書館員の僕としてはやはり残念に思
う。
もっとも「カーリル」開発元も、ISBNのない資料について対応する必要を
感じているようで、早くも対策準備を進めているという。この素早い動き出
しは凄いと思う。
今後、ISBNのない資料も検索対象になれば、「カーリル」からの図書館蔵
書検索対象は格段に広がるが、やはりそれでも、Amazonデータベースで本を
特定して、そこから図書館蔵書の有無を確認する仕掛けである限りは、
Amazonで扱いのない資料は「カーリル」からは探せない。
流通していないけれど図書館にはあるという資料が、検索しても見つから
ないという問題に、今後「カーリル」は対応していくのだろうか、この点は
興味深い。
* * *
ここで「カーリル」は図書館蔵書全部を探せるわけではないのだから不十
分だと言って、そこに図書館OPACの優位性を感じたりする公共図書館員がい
るとしたら、それは僕は違うと思う。
逆に「カーリルに探してもらえないのはどうしてなのか?」「そのために
公共図書館はどうすればいいのか?」と考えないといけないと思っている。
恐らくそれは、現状の「カーリル」のようなAmazonありきのアーキテクチ
ャーでは難しいんじゃないだろうか。
そこを越えるには、例えばすべての公共図書館OPACがOpenSearchに対応す
るなり、各ベンダーそれぞれが検索用のAPIを公開すれば良いのだろうと思
う。
だが、現状の公共図書館OPACはそれにはまだまだ程遠い、クローズドなデ
ータベースシステムとなっている。
図書館ホームページで利用を待っているだけでは、ネット上での情報流通
からは取り残されてしまうのだが、この点を各図書館システムベンダーも多
くの公共図書館員もあまり気にしていないように感じられる。
ちなみに、僕自身はGoogleなどの外部からも自在に検索できるオープンな
OPACを作って欲しいと再三メーカーに要求しているが、担当SEからは「そう
いう要望を出す人は、ほとんどいませんから、開発スケジュールに組み込む
予定はないですね。」と切り返され続けている。
一般的に公共図書館システムのリース期間は5年くらいだろう。
すると、この4月にシステムリプレイスを行う館は、2015年まで同じシス
テムを使うことになるし、現時点で開発スケジュールに入っていないのだか
ら、下手すると今後10年近くも閉じたままのOPACを使い続けるのかもしれな
い。それではインターネット上で、公共図書館の存在感がますます薄れてい
きそうだ。
今回「カーリル」に即座に反応したアンテナの高い公共図書館員の方々と
共に、メーカーに必要性を訴えていければ、少しは現実を変える力になれる
かもしれない。
「カーリル」は、そんな契機になり得る大きなインパクトを持ったサービ
スではないかと思う。
* * *
「カーリル」によってもたらされる変化は、ユーザー側の利用方法の劇的
変化であって、探される図書館側の資料もデータも何ひとつ変化してはいな
い。
だから「カーリル」がいくら便利であっても、図書館が進歩したような気
になってはいけない。
そこに気付いて行動できるかどうかが、司書と図書館愛好者との違いだと
思うので、昨日からスタッフの研修を兼ねて、勤務先のスタッフ全員が参加
しているGoogleグループ上で「カーリル」についてのディスカッションを開
始してみた。
全員がこのディスカッションに食いつけないまでも、既に図書館以外の人
がこういうことをやっているという事実を知り、そこで何か感じて欲しいと
思っている。
探される側である図書館がやるべきことは、検索されやすい仕組みの構築、
記事や目次を含む検索対象となるデータの整備、そして市場に出にくい行政
資料などを網羅的に収集することだろう。
図書館員として「カーリル」で図書館が世間に注目され嬉しい反面、ここ
でそれに応えるサービスを考え行動しないと、インターネット社会に対応し
た公共図書館にはなれないんじゃないか、という危機感を感じている。
◎田圃兎
http://d.hatena.ne.jp/t_rabi/
「大学の図書館」3月号(大学図書館問題研究会)に、職場のスタッフと
共同でWebサービスの記事を書きました。これを機に、大学図書館員との
交流も期待したいところです。