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■「図書館の壁の穴」 /  田圃
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第45回 都道府県立図書館と市町村立図書館

神奈川県立の2つの図書館が、一般への閲覧・貸出をやめる検討に着手した
のだという。
専門書の収集や司書の養成などに特化し、コストを約10億円削減するという
方向で、来年度以降に方針を決定するのだそうだ。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121108-OYT1T00640.htm?from=ylist

財政の悪化で文化事業が真っ先に切られるのは、企業も大学も自治体も変わ
りがない。役割ではなく経費が真っ先に問題とされてしまう。
また同じことかと思わなくもない。

ただ、今回の神奈川県のケースは、もう少し踏み込んで見ると新しい公共
書館のあり方に繋がるような側面もあるのかもしれないという気がしている。

            *   *   *

何度か過去のメルマガにも書いたことだが、僕の勤務先の人口5万の市立図
書館では、400タイトル近い雑誌の永久保存や複本買わない方針を2004年の開
館以来、堅持している。

だが、人口5万の自治体が、400タイトル以上の雑誌の永久保存を標榜する
というのは、なかなかに厳しいものがある。
なぜウチの市がそれをやらねばならんのだ?そういう大きなことは県に任せ
ておけばいいといった話も度々出てくる。

とはいえ、こちらでは県には無いものも多数所蔵しているし、最後は県に配
送し、あとは任せたと言えるような関係も仕組みも現状は何もない。
要は県に寄りかかるという意識の市町村幹部職員が多数いるということだ。
そして、そういう幹部職員はどこかの部署から異動してきては、数年で異動
や定年退職を迎える。
そして問題は置き去りとなり、いつまでも同じ話を繰り返している。
これはこれで市町村のリソースの浪費だろう。

このあたりの問題に踏み込んで、交通整理をする機会として、今回の神奈川
県の事例を考えてみたらどうだろうか?

都道府県立のやることと、市区町村立のやることに関しては、「都道府県立
は市区町村立の支援が仕事だから直接的な市民サービスに重きを置くもので
はない」という考え方と、「市区町村立のサービスが不十分だから都道府県
立が直接的なサービスもしなければいけない」という考え方がある。
これについては、各地の事情は様々なので、一概にどうするべきであるとい
うのは、少々乱暴なように思う。
だから、各都道府県が中心となって市区町村に呼びかけ、まずはフラットに
話ができる場を作ることが必要ではないかと思う。

別に閲覧や貸出を都道府県はやるべきではないといった急進的なことを僕は
言うつもりはない。
市区町村立が都道府県立の連絡調整機能に依存するばかりではなく、そろそ
ボトムアップで市区町村立側から話が出てもいいと思うし、そこで何でも
県に押し付けるのではなく、分担収集や保存のことあたりから役割の分担を
真剣に考えてもいいだろう。
そのサービスは市区町村立が引き受けるから、この部分は都道府県立にやっ
て欲しいと言う話を、司書ではない幹部職員の調整に任せるのではなく、現
場の司書職員同士が知恵を出し合って考えたい。
これは、文言をならべ立てて解釈に委ねる条例のような大まかな文書をつく
るだけでは当然ながら実効性に欠ける。
いろいろな意見の間をとって、落としどころを見つければいいというもので
はない。現場の作業手順レベルまで踏み込んだ、実施方法の協議が必要なこ
とだ。だからこそ、現場担当者に協議の席についてもらう必要がある。
それをするには、まず各自治体の担当者間の顔の見える関係の構築が必須で
はないかと思う。
図書館で働いている以上、職位に関係なく、 図書館利用者に尽くし、スタ
ッフが喜びを持って仕事ができる環境 をつくろうと思わない人は恐らくほと
んどいないだろう。
そういう最大公約数が見えている以上、話し合いができないとは思わない。

この発想自体がラディカルに見えるのかもしれないが、都道府県立と市区町
村立の関係については、もはや見直しが不可避だろう。

インターネットは、どこが中心ということではなく繋がっている。
各地域の図書館についても、そんなモデルを描いて話が進められると良いの
ではないかという気がする。
どこが中心ということではなく、機能分担をして相互補完し、ユーザーに必
要な資料・情報を届ける仕組みの再構築を、そろそろ考えてもいい。

いま僕は、本職の市立図書館副館長に加え、県の図書館協会の研修アドバイ
ザーという任に就いているが、もし仮に任せてもらえるのならば、県のそん
な仕事もやってみたいと思う。