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■「図書館の壁の穴」 /  田圃
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第47回 3/16の講演会レポート

大変遅くなってしまったが、このメルマガの1/15号で予告していた、当館で
のイベントについてレポートしておこうと思う。

まず、月替わりで資料を展示している図書館入り口のコーナーで、この3月
には震災・復興関連の資料展示を実施した。
このコーナーは、もともと毎回スタッフがテーマを決めて、資料を選び、キ
ャプションを書いて飾り付けをする形で運営している。
単純にキーワードに合致した本を並べて済ませるのではなく、博物館の展示
を目標にサブジェクトについて調べてキャプションを書こうというスタンス
で展開している。

東日本大震災から2年を経て、どんどん記憶が風化していくことを懸念し、
当館スタッフの発案で、みちのく図書館員連合(MULU)の方々にも本を選んで
もらい、紹介文も書いていただいた。

 ※MULUは、東北の図書館員同士ができるだけ顔を合わせて交流する場を作
  ろうという趣旨で結成された、200名近くのコミュニティです。

各人が紹介してくれた本を見ていると、実際に何を思ってこの2年間を過ご
してこられたのかが感じられて、とても興味深い棚になった。

http://booklog.jp/users/lib-yuki_event?display
=front&category_id=2321163&status=0&rank=0&sort=date_desc

この棚との連動企画として、市民向けに3/16には庄子隆弘氏の講演会を催し
た。
津波の被害からの復興に尽力されている彼は、昨年筑波大学附属図書館で、
自らの被災状況と復興についての講演を行っている。
その後も、各地で講演したり、彼の撮影した写真を都内の図書館が借りて館
内展示するなど、被災の記憶が風化しないよう、活発に活動されている。

講演当日は、図書館が通常の開館日であり、この講演会の運営にスタッフを
割くことが少々厳しい状況だった。
そこで、自分の主催する公共図書館Webサービス勉強会に、会場設営や機材の
設置、受付、司会、撤収などイベント要員を求むメールを流してみたところ、
続々と各地から図書館員が集まってくれ、7名の方にご協力いただけた。
地方小都市の図書館イベントに、現職ライブラリアンがそれだけ集まって働
いてくれれば、戦力としては十分以上だ。
これは本当にありがたかった。

実は僕自身、津波に流されてしまった彼のご実家があった場所を訪れ、何も
かもが流され本当にすべてモノクロームになってしまったような、ここはど
この世界だ?と目を疑うような光景の中で、庄子さん本人から「こんな時に
図書館員に何ができるんでしょうね?」と重い問いを投げかけられたことが
ある。
その言葉が楔のように突き刺さったまま、この2年を過ごしてきた。
だから市の職員として云々ではなく、この企画は個人的にもぜひ実現したい
と思い続けてきた。
その念願をかなえるために、賛同して他の図書館の方々が何人も応援に駆け
つけてくれたことは、本当にうれしかった。

当日の流れは、私が10分間ほど説明をした後に、庄子氏が90分の講演。
自身の体験と、図書館で起きたこと、そこから復興に向けて図書館にできる
ことや、本の持つ力についてなど、随所に本の紹介を織り交ぜながらの濃密
な内容だった。
講演内容の節目節目で図書館イベント棚にも言及され、本の紹介を挟むとい
った構成で、防災関係ではなくきちんと図書館イベントとして成立するよう
大変よく組み立てられた講演だったと思う。
講演後の質疑応答では、次々と質問や感想を述べる市民の方が現れ、大好評
だった。
聴衆の中にいらっしゃった方から、ぜひこの本を進呈したいと、庄子さんに
本が贈られるなど、なかなか熱い感じで、この模様はローカルながらケーブ
ルテレビで放映もされている。

講演の中で僕も庄子氏も言及したが、他館の図書館員が今回手助けしてくれ
たことのように、資料の相互貸借に留まらない図書館員の連携を、この機会
に実現できたことも、この会の大きな収穫だった。

今回は他館の方々に協力いただき、MULUの方々にも棚作りで協力いただくこ
とができた。
だがこれで終わりとは思っていない。
これを発端に、この企画を他館で望むところがあれば、、美術館の巡回企画
展みたいに、部分的でもまるごとでもお渡しすることも可能だし、また逆に
他館の企画もシェアしあうのも面白いと思う。

何もこの震災の話だけでなく、いろんなことで連携し、各図書館が活性化し
社会における図書館のプレゼンスを上げていきたいと思うと同時に、図書館
員のモチベーションも上がるような連携ができればと思う。

自治体直営館の場合、その自治体の税収でやっている以上、こうした協力関
係を業務として実現することは、なかなかハードルが高い。
当面は、今回のような好意で支援しあう輪を広げて行くしかないのかもしれ
ない。
だが、資料の相互貸借では、その自治体のお金で買った本を他の自治体に貸
し出したりしているのだから、イベントなどの相互協力が、いつかこうした
ことが当然のこととならないとも限らない。

指定管理の図書館の方が、この点はまだ動きやすそうに思える。
1つの企業が各地に多くのスタッフを擁しているのだから、企画に応じてそ
れが得意な人を集めて投入するといったことも、出来るのではないだろうか。
そういった活動自体がスタッフ教育にもなり、スタッフのキャリアパスの構
築にも繋げられたら、また面白い試みになるのかもしれない

             *   *   *

講演のあとはもちろん懇親会。

仕事を終えた図書館員だけでなく文化施設関係者も多数懇親会に出るために
駆けつけてくれ、様々な方々と明け方近くまで、体力の限界まで、これから
の図書館や社会教育行政について話し合うという、なんとも熱い交流がくり
広げられた。

これは先日、茨城県図書館協会研修委員会で私が主張したことだが、顔の見
える関係をつくらないと、せっかく研修等でいろんな人が集まっても何も残
らない。報告書を書いてお終いの研修などに、大した意味はない。
そこを突破して、各館のノウハウでも何でも共有できる形を目指す…そんな
意味でももっと個人がナマで話せる懇親会はマストだと思う。
そういうインフォーマルな場でこそ、面白い企画があがることは多いものだ。

自治体直営館は、その地域の税金でやっている以上、広域には目が向きにく
い面があるのだが、それは僕の目から見れば狭い考え方のように思う。
道州制とか大きなことを考えるつもりもないが、シンプルに損して得獲れと
思い何でもシェアして行くことによって、結果的に図書館や本の世界を豊か
にして行ける可能性はある。
今回の当館イベントは、そんな気がする一件ではあった。

田圃
    http://d.hatena.ne.jp/t_rabi
     実は、異動で図書館を離れてしまいました。
     何らかの形で本の世界に舞い戻れるよう、現在活動中です。
     このメルマガに図書館員枠をキープするという責務も感じて書い
     てきましたが、異動になっちゃった以上、それが果たせません。
     そこで、次回からは敬愛する先輩司書が新たに登場してくださる
     予定です。ぜひご期待ください! 

     軽い気持ちで書き始めたメルマガが、なんと8年もの長い連載に
     なっていたことに驚きます。
     お読みいただき、ありがとうございました。
     担ぎ出してくださった前編集担当の守屋さん、引き継いでくださ
     った畠中さんにも感謝しています。
 
     近いうちに図書館界に、これまでとはまた違った立ち位置ででも
     復帰する予定でおりますので、ふらっと寄稿する日も案外近いか
     もしれません。
     ともかく、まずは目先の課題に精進せねば…
     では、またお会いしましょう。