([本]のメルマガ vol.357より)

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■「図書館の壁の穴」/田圃

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第26回 レファレンスサービスの転換

過去の新聞記事を探そうという場合、新聞社の有料データベースを使えば容
易に検索できる。
それに比べ雑誌記事は、なかなか探しにくい。

学術雑誌の場合は、全文が公開されている記事(=論文)は、Cinii(国立情報学
研究所の学術文献のデータベース)と各機関のリポジトリが連携したことで、
随分探しやすくなった。
だが、一般誌の記事に関してはそうもいかない。

一般誌の場合、目次などの情報源は各出版社のサイトに分散していて、それ
ぞれサイトの構造も違うし、運営も試行錯誤というところが多いので、網羅
的に探す方法が今のところどこにもない。

一般誌と学術雑誌とは発行目的も想定される用途も違うのだから、同じよう
に目次や全文にアクセスしたいという考えに無理があるのかもしれない。
でも、一般誌も公開されているケースが少なくないだけに、それらはどうに
か有効に活用したいと思う。

一般誌についてはとても俯瞰で何かが言える状態ではないが、いくつかバッ
クナンバーの全文公開例を挙げてみたい。

INTERNET magazine(インプレス)

  創刊号(1994年9月発売)から2002年2月号までの85巻が無償で公開され
  ている。全文検索や目次が提供されていて、PDF形式で閲覧できる。
  インターネット黎明期の文化的な記録という意味で、貴重な情報源では
  ないかと思う。

○Hanako,Tarzan,クロワッサン,Hanako WEST,Casa BRUTUS(マガジンハウス)
  MSNとマガジンハウスが提携して、「MSNマガジンサーチ」というサービ
  スを2008年5月に開始している。
  「雑誌の性格上、あまり古い(店舗などの)情報を掲載している号を公
  開しても読者の利益にならない」(マガジンハウス)ということで、基本
  的に2007年秋以降の刊行誌を、販売開始から1〜2か月ほどの期間を設け
  て権利関係を処理し公開しているとのこと。

Dancyu(小学館)
  これは全文公開ではないが、本誌に掲載された料理のレシピが検索でき
  るので価値は大きい。

他にも、フリーペーパーのR25,L25(リクルート)が最新号まで無料公開され
ているなど、記事ではなく誌名から探していけば、いくつか見つけることは
できる。
特に業界紙など専門的なものは、全文が公開されているものが割と多いよう
だ。
ず・ぼん」(ポット出版)は、雑誌でなく書籍扱いだが、かなり早い時期か
らバックナンバーの全文公開に踏み切ったことで知られている。
だが、Ciniiから直接本文にはリンクされていない点は惜しいと思う。

fujisan.co.jpでは、ストリーミング形式で読むことができる雑誌が、デジ
タル雑誌というカテゴリで多数取り扱われている。
基本的には一般に流通している雑誌のデジタル版なので当然有料だが、中に
は幾つかフリーペーパーのデジタル版もあるようだ。
こうした紙媒体で出版された雑誌をそのままデジタル化したもの以外に、例
えば「Number Web」(文芸春秋)のように、本誌の情報とは別にWeb独自の記
事を発信するサイトもあれば、最初から紙媒体のないオンラインマガジンも
ある。
例えばファッションウォーカー社がサイト上で無料公開している「ShORTY」
はじめフリーのファッション誌を9タイトルなどがそうだ。
こういったものも視野に入れると、講談社の「MouRa」や「ほぼ日刊イトイ
新聞」、さらには僕も記事を書いているポット出版の「マガジンポット」も
オンラインマガジンと考えられなくもない。

そこまで範囲を広げていくと、ある種のブログも同様に見えてくる。
確かにブログが書籍化されるケースは多々あるわけで、中には貴重なコンテ
ンツも数多い。

公共図書館には地域の情報を収集・保存する役目がある以上、地域の情報を
発信している人のブログやホームページは把握しておきたい。
そういった有益な地域情報サイトが、永続的に存在し続けるという保証がな
い場合には、図書館が丸ごと保存させてもらった方が良いかもしれないし、
内容によっては、図書館がサーバーを提供しても良いのではないかと思って
いる。
地域の人々が情報を発信するための手助けも、図書館の仕事じゃないかと僕
は思うので、サーバーの提供もそんなに無茶なこととは感じていない。

ちなみに勤務先では、この「[本]のメルマガ」と「[書評]のメルマガ」を、
編集者の許諾を得てプリントアウトし、創刊号から雑誌として受け入れ、製
本して保存している。
これは、パソコンを使わない人にもこのメルマガを読んで欲しいと考えただ
けではなく、図書館が扱う情報の幅広さを伝えたいという意図もあって、そ
のようにしている。

             *  *  *

資料そのものを手にとって調べることが廃れるとは思わないが、情報技術の
進歩によって、資料に至るまでの手間がどんどん軽減されていく。
10年以上前から大学図書館がそういった方向に進んでいるように、公共図書
館においても図書館施設に出向かずに、ある程度の情報サービスを享受でき
るようになっていくだろう。
いま学校で、情報科目が必須となっている世代が、世の中の大半を占める時
代には、調査研究支援機能の大部分は、恐らくそういうことになっているの
ではないかと思う。

これまで多くの図書館では、個別に対面のレファレンスサービスを利用せず
とも、自分で求める情報にたどり着ける利用者を増やそうと、様々な努力を
重ねてきた。
パスファインダーや様々な文献リストなどがその好例だ。
僕の勤務先でやっている、国立国会図書館雑誌記事索引RSSを受信して、
はてなRSSで所蔵雑誌の新着記事を公開するサービスなどは、そこを確認し
て読みたい記事があれば図書館に行ってみようという利用を想定しているの
で、来館せずに図書館を利用できる仕組みの1つと言えるだろう。

それに対し、貸出数やレファレンス件数、来館者数などを図書館の成果とし
て評価する人は依然として数多い。
そういった人々に、来館しない利用者も今後増えていくということを理解し
てもらわなければ、新しいサービスを追求しにくい状況に、もう突入しつつ
ある。
もっとも、新たな機能を知り、実際に利用してもらえば伝わることなので、
この点に関してはそれほど悲観する必要もないだろうとは思う。

             *  *  *

僕の勤務先では1年ほど前から、予算の都合により自前のサーバー上でWeb
サービスを行うよりも、民間の無料サービスを上手く活用する方向を模索し
ている。
そんなゲリラ戦のような発想から、例えば今後、Yahoo知恵袋やはてなの人
力検索のといった質問サイトに、図書館のレファレンス窓口を開設したいな
どと、かなり飛躍したことを考えたりもしている。

これは、レファレンス件数の増加が狙いというわけではない。
行列が出来る図書館が良いとは思わないし、支持してもらうために媚びる必
要もない。逆に偉そうにするのは問題外だが、ともかく図書館の役割の大半
は、資料や情報を必要としている人に、それを提供することだろう。
Yahoo知恵袋にレファレンスカウンターを作りたいという考えは、何かを知
りたいときの選択肢として図書館もあるということを、もっと身近に知って
もらい、効果的に他の情報源と使い分けて欲しいということだ。

IPアドレスを解析すれば、アクセス元の市外局番まではわかる。
それによって質問者を制限し、さらに実名明記での質問しか受けないという
ルールにしておけば、質問サイト上に図書館窓口を開設しても、図書館側に
混乱はないと思う。
多くの図書館がそんな窓口を設けて、質問サイトで「図書館に訊く」を選ぶ
と各地の図書館に質問が割り振られるようになればいい。
受けた質問と回答を、質問者を匿名にして公開すれば、質問サイトの運営側
にも、文献の裏付けのある図書館レファレンス事例が蓄積されるのでメリッ
トはあるかもしれない。

もっとも、図書館レファレンスの回答は、答えそのものよりも、そのことが
掲載されている文献を紹介することが主となる。
それは、質問サイトユーザーのニーズとはズレているだろう。
でも、手軽に知ることができる情報と、文献を調べることとの違いを広く知
ってもらえれば、それはそれでいいのではないかと思う。

インターネット上の質問サイトに対し、あまり良くは思っていない図書館員
も多いようだが、僕はそこを利用して、図書館の情報サービス機能を知って
もらうことを考えた方が建設的ではないかと思っている。

             *  *  *

利用者を情報源に誘導するナビゲーターの仕事は、徐々に自動化していく。
だから司書は、情報源にアクセスしやすい仕組みをつくる仕事と、パスファ
インダーや文献リスト、資料紹介といった情報を発信する仕事に比重を移す
意識を持った方がいいだろうと思う。
そうした仕事を網羅的に行うことはまず不可能だから、まずは地域に関わる
情報から着手するしかない。
例えば、Googleアラートなどで見つけた地域に関係のあるWeb上の情報を、
図書館ブログで紹介するといったことは、そう難しくはない。

それから図書館資料に絡んだ情報サービスとしては、図書館で受入れている
雑誌の出版社サイトを横断検索して、目次検索に近いものをつくることくら
いは、比較的簡単に実現できるだろうと思う。

実は、既にこれらについては勤務先で試行錯誤を始めている。
いつ公開できるのかはわからないし、本当にモノになるのかどうかも、わか
らない。でも、アイディアを出すだけにとどまらず、実際にいろいろな試み
を重ねなければ、新しいサービスは生み出せないものだろうと思う。

今月から勤務先の有志を募って、新しいWebサービスに関する情報交換と、
図書館サービスへの効果的な導入法を検討する勉強会を始めている。
まだ「新しいものを何でも取り入れるのではなく、目的や導線を整理して有
効なサービスを選択しよう」などといった基本的な意思統一ができたくらい
の段階だが、BBSや業後のミーティングなど、徐々に活動が本格化しつつある
ので、これからが楽しみだ。

田圃
 iGoogleガジェットからの蔵書検索、ようやくリリースできました。
 構想から1年近くかかったでしょうか。
 旧式の図書館システムは、何かと難しいもので・・・