([本]のメルマガ vol.363より)

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■「図書館の壁の穴」/田圃

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第27回 システムを突破口に

先日ある出版社の座談会で、Project Next-Lという、みんなで集まって新し
い図書館システムを作ろうというグループのコアメンバーの方々にお会いし、
話を聞く機会があった。

Project Next-Lと聞いて、はたしてどれくらいの方がご存知なのだろう?
図書館関係者でも、名前は聞いたことがあるけれど、内容は良くわからなく
て、他人事だと思っている人が多いんじゃないかと思う。

現に僕自身もそうで、図書館システムを実際にプログラムを組んでつくりあ
げるグループという大雑把な理解をしていた。
プログラム言語は15年以上前に仕事で使っていたCOBOLとPL/1なら少しは書け
るけれど、javaやらperlやらRubyといった新しい言語はあまり自信がないか
ら、自分には縁遠い話だと思いずっとスルーし続けてきた。

2006年にNext-Lが発表された時に「図書館員が集まってシステムをつくる」
というイメージが一気に浸透し、去年「プロトタイプができました」という
情報が流れたので、僕と同様の勘違いをしていた人も多いのではないだろう
か?

座談会に誘われたのを機に、改めてNext-Lのホームページをよく読んでみた
ところ、図書館システムの仕様書を作りましょうという趣旨の団体であるこ
とがわかった。
莫大な費用がかかっているにもかかわらず、現状の図書館システムはあまり
にも世の中の進歩から取り残されている。図書館員・利用者のニーズにもっ
と沿うような形で、臨機応変な対応ができ、コストも今より押さえたものが
できないかという考えから、図書館員が集まって、新しい図書館システムの
仕様書を作ろうと立ち上げた団体である。

プロジェクトでは、仕様を検討するのと並行して、実際にRubyという言語で
プログラムを組める人材が内部にいたからプロトタイプを作ることになり、
そのプロトタイプの出来が良かったので、仕様書だけでなく、実際に動くモ
ノも作ってみようという流れになって、現在まで進んできたらしい。

仕様を考えるだけならば、もちろんプログラミング能力なんて関係ない。
例えば、貸出処理のときは、バーコードを読み込んだら即座に貸出という方
式と、読み込んだ後で実行ボタンを押して処理が確定する方式と、どっちが
いいでしょう?という実務レベルの話ができる場だったわけだ。
それならば、貸出・返却・受入といった作業をしている図書館なら誰でも参
加できる。
そんなわけで、喜んで座談会に参加させてもらった。

実際のところ、今回の座談会でプロジェクトのメンバーは、もっと多くの現
場の司書の声を聞きたいと思っていることが、よくわかった。
このプロジェクトでは、まず最初に学校図書室や小規模公共図書館、あるい
はこれまで図書館システムを導入していなかった館などを対象としたシステ
ムをリリースするのだという。
それならば尚更、対象となる図書館で働いている方々の意見を、早いうちに
取り入れた方がいいだろうと思う。

だが、プロジェクトの先頭に立って情報を発信しているコアメンバーは、最
新技術に造詣の深い優秀な方々なので、Next-Lの先進的な機能ばかりが知ら
れる結果となり、ますます現場の図書館員から見ると縁遠い印象となってい
る感じがする。
また現在のプロジェクトのコミュニティにも、WEBの技術に関する知識がな
い人は、ちょっと発言しにくい雰囲気があるように感じる。

僕をはじめ、現場で働く多くの図書館員達が関心を持つようになるには、プ
ロジェクトのコアメンバーも、気軽に通りすがりの司書が参加したくなるよ
うな雰囲気作りをする必要があるのではないかという気がする。
メンバーの真意が正しく理解されれば、意欲的な人はどんどん集まるはずだ。

僕と同じような誤解をしていた方々は、ぜひNext-Lのサイトを覗いてみて欲
しいと思う。
そこで興味を持った人は、とりあえずメーリングリストに参加することをお
薦めする。(もちろん僕もすぐに入りました。)
また、図書館員に限らず図書館利用者の方も、このコミュニティでは自由に
発言ができるので、OPACはもっとこうなれば便利だ、などの意見をどんどん
出してみると良いのではないかと思う。

○Project Next-L
http://next-l.slis.keio.ac.jp/wiki/wiki.cgi?page=frontpage

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Project Next-Lが最終的に目指しているところを、まだ正確に理解できたと
いう自信はないので、一概に何とも言えない気もするのだが、以前から僕は
各図書館がシステムを共有できればいいと思っていた。

例えば、僕の勤務先のシステムと同じものを導入している図書館は、同県内
だけで10館以上もある。
各館が個別に数千万円もかけてシステムを導入するよりは、代表館にシステ
ムを入れて、それを参加館が共同利用して、使用料を支払うような方式にし
た方が、ずっと安上がりだろう。
一本化してコストを抑え、その分だけ本を買った方がいいと僕は思っている。

既に海外では、米国の大規模書誌ユーティリティであるOCLCが、システムの
共同利用を目的とした図書館業務管理システムの構築を表明している。
http://current.ndl.go.jp/e925
日本でも、国立国会図書館がシステムを用意して、すべての公共図書館がそ
のシステムを共同利用するという形が実現できないものだろうか?

各館の事情や個性的なサービスという点は、外付けの機能を各館が開発して
もいいだろうし、仮にProject Next-Lのシステムや、まちづくり三鷹のオー
プンソースのシステムのようなものが採用されれば、Rubyを習得した各館の
司書たちの手で、継続的にシステムを成長させることもできる。

現在多くの図書館がそうであるように、メーカーのパッケージシステムをリ
ース契約で導入した場合、契約期間内はどんなに時代遅れの機能になろうと
も我慢せざるを得ない。それを考えると、この点でオープンソースのシステ
ムは大いに魅力的だ。

ともかくシステムが一本化できれば、複数の図書館が一体となって動ける可
能性が開けてくる。
そんなところを突破口に、各図書館間の人事交流を進めていけば、司書のキ
ャリアパスを確立できるかもしれない。

             *  *  *

公共図書館で働く正職員の司書は、専門職として採用されるケースは少なく、
数年ごとに異動してしまう場合が多い。
図書館で働きたくて公務員になったのに、ほんの数年間だけしか図書館に勤
務できなかったなどという話を聞くことも少なくない。
その逆に、図書館勤務を望んでいなくても人事異動で図書館に回される場合
もある。

意欲があり長期的に図書館で働きたいと思っている職員に対しては、例えば
市民課だとか水道課だとかに異動させるのではなく、他の自治体の図書館や、
学校図書館、もしくは書店や大学など、業界や現行制度の枠を越えた人事交
流で、トータルで本に関わる仕事をする人を育てる体制をつくれないだろう
か。
もちろん役所がそれを簡単に容認するとは思わないが、もはや自治体直営ば
かりが公共図書館ではない。いろいろ可能性はあると思う。

田圃
 『みんなの図書館』9月号(図書館問題研究会)に原稿書きました。