([本]のメルマガ vol.375より)

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■「図書館の壁の穴」/田圃

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第29回 デジタル社会への対応

デジタル化が進む中で公共図書館はどういうあり方を目指すのかを論じる、
図書館員を対象とした会議や講習などが、近頃急速に増えている。

デジタルに対応するために、蔵書への導線や外部情報源へのナビゲートとい
ったWebサービスに積極的に取り組む必要性は感じるが、もちろんそれがす
べてということでもない。
また、紙かデジタルかという見方ではなく、両方を蓄積し提供するというス
タンスでいかないと、網羅的な情報を提供し続けることは難しいのだから、
どちらか一方だけに偏るような考え方は避けたいとも思っている。

図書館機能のベースとして、情報の収集と蓄積は欠かせない。
発信される様々なデジタル情報についても、いかに収集するかと同時に、地
域の情報発信を支援するところまでも含め、図書館サービスということで考
えていきたいと思う。

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Googleブック検索(11/14現在「米国著作権局に登録済みの書籍、または米・
英・豪・カナダの4か国で出版された書籍」のみが対象とされている。)や国
国会図書館の資料デジタル化により、インターネット上で図書や雑誌が発
見される機会は格段に増える。
画面を通して閲覧して済むというケースが増えるのと同時に、そこで近くの
図書館の所蔵情報がわかるようになれば、今よりも資料に向かう人は増える
可能性もある。
デジタルで参照して済むものと、手にとって読みたい本の違いは、個人差や
世代による差もあると思うが、人間そのものがアナログなのだから、スイッ
チが切り替わるようにデジタルオンリーでいいという時代に突入するとは思
えないし、それは100年先もひょっとしたら変わらないのではないかという
気もする。

デジタル化が進むほど、逆にオリジナルの本や雑誌などの資料を保存してい
る価値が問われる面があると思うので、図書館はその点で手を抜いていいと
は思わない。
図書館で保存されにくい紙資料というのも、巷にはたくさんある。
それについても目を向けて、どの図書館が何を網羅的に収集・保存していく
かといった分担を検討する必要性を感じている。
将来的にはアーカイブスの充実によって、例えばサービスを中心とした図書
館と、保存のためのアーカイブスとに分離し、連携する形になるのかもしれ
ないし、あるいは国立国会図書館を中心とした、集中型の保存の仕組みが確
立されるのかもしれない。
ともかく、いずれにせよ資料の存在・所在を把握するための総合目録システ
ムの整備は不可欠だろうと思う。

ともかく現状では、図書館がいま所蔵しているオリジナルの資料を保存し続
けなければと思うし、そのための体制を確立しないといけないのではないか
と思う。
なにしろまずは保存していなければ、デジタル化もできないのだから、そこ
は待ったなしの状況だろう。

もちろん、限られた個々の図書館のリソースで、どれだけのことができるの
かという問題はある。
だからまずはやれるところから始めて、徐々に市民の理解を得るという正攻
法で、現場としては地道にやっていく以外にないと思う。

公共・大学・専門といった館種を越えた資料提供に関する協力体制も、現状
はまだまだ未整備に近い状態だ。
NACSIS-ILL(国立情報学研究所による主に大学図書館間の相互貸借に利用さ
れているシステム)に参加できない市町村立図書館の利用者が、大学図書館
の資料を手にするには、公共と大学が個々に提携していないと難しいという
ケースもまだまだ多いという。
こんなところも、制度面から見直して連携を図れる余地はあるのではないか
と思う。
例えば都道府県立図書館はNACSIS-ILLに参加する資格があるのだから、そこ
をノードに突破できる可能性はあると思うのだが・・・

このように、資料の収集・保存・活用について、あるいはWebサービスを含
めたシステムの充実についてなど、課題は山積している。

今後それらについて、現状を把握しながら様々な場で検討しあい、図書館の
現場でより良いサービスができるよう、自分自身も少しずつでも何か具体的
に実践していければと思っている。

             *  *  *

現在勤務先で公開している「新着雑誌記事速報」というサービスがある。
これは国会図書館雑誌記事索引富士山マガジンサービスRSSを利用し、
Google AJAX Feed APIを使って雑誌最新号の目次情報を表示するものだ。
これについて最近、作成・運用マニュアルを公開することができた。
○「Google AJAX Feed API 版「新着雑誌記事速報」作成・運用マニュアル」
 http://www.lib-yuki.net/room_ad/manu.pdf

この「新着雑誌記事速報」は、ARGの岡本真氏が各地の研修講師をされる中
で何度かご紹介いただいており、9月下旬に行われた千葉県立中央図書館で
の研修で刺激を受けたという野田市立図書館のwemfls氏が、研修からわずか
1週間でこれと同様のサービスをリリースされた。
野田市立図書館新着雑誌記事速報
 http://www.library-noda.jp/homepage/info/magind.html
またこの事例については、岡本氏がこちらで紹介している。
○「丸善ライブラリーニュース第7・8合併号(平成21年11月10日発行)」
 http://www.maruzen.co.jp/business/edu/lib_news/pdf/library_news159_14-15.pdf
さらに野田市立図書館では、立て続けに以下のサービスも開始している。
野田市立図書館地域&図書館News紹介
 http://www.library-noda.jp/homepage/info/chiind.html
野田市立図書館検索アクセラレータ
 http://www.library-noda.jp/homepage/info/accera.html
この勢いは凄い。
今後の動きにもぜひ注目したい。

ちなみに「新着雑誌記事速報」を制作した当館スタッフ牧野雄二くんが、こ
れを応用して「結城市関連論文ナビゲーター」というプログラムを作り、国
立情報学研究所主催CiNiiウェブAPIコンテンストに応募した結果、優秀作品
のひとつに選ばれている。

※CiNii・・・国立情報学研究所が提供する、学協会刊行物・大学研究紀要・国
     立国会図書館雑誌記事索引など、学術論文情報を検索できる論
     文データベース

これは、CiNiiに収録されている学術論文を、あらかじめ設定したキーワード
で検索し、画面に表示するというもので、そのまま論文の本文を参照できる
というものだ。
結城市関連論文ナビゲーター
 http://www.lib-yuki.net/ronbun_navi.html

多くの公共図書館利用者にとって、CiNiiはあまり身近なものではない。
だがそこに収録されている論文は、郷土関係の文献をはじめ、公共図書館
用者にとって役立つものも少なくない。
それらを手軽に利用してもらうための仕掛けとして、このプログラムは効果
的ではないかと思う。
このプログラムを通し、公共図書館で利用される資料の幅を少しでも広げ、
図書館の可能性を市民に伝えることができるかもしれないと期待している。

先日、図書館総合展のフォーラムで、先にあげた「新着雑誌記事速報」「
結城市関連論文ナビゲーター」とともに、「はてな」「ブクログ」などを利
用して勤務先で公開しているWebサービスを幾つか紹介させていただいたの
だが、それらは図書館サイトにアクセスしなければ使えないものであり、ま
た図書館員でなくとも構築できるものでもあるということが、現状でのひと
つの壁だと僕は感じている。
図書館システムに費用をかけられなくても、無料で提供されているサービス
を、図書館員が工夫し応用することで実現していることについて、先端事例
として紹介されることは嬉しいが、同時にこれが公共図書館によるWebサー
ビスの最先端だとされていることについては、まだまだこのレベルではいけ
ないという思いでいる。

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図書館でのWebサービスの活用については、勤務先のスタッフばかりではなく
Googleグループを利用した「公共図書館Webサービス勉強会」という、他館の
方々も交えた場で、普段から様々な検討を重ねている。

Lifohttp://www.lifo-club.org/やMULUhttp://mulu.g.hatena.ne.jp/
ど、図書館員の間では有名な勉強会はたくさんあり、それぞれが活発な活動
をされている。
そんな中で僕が立ち上げた「公共図書館Webサービス勉強会」の特徴のひとつ
は、その手軽さにあるかもしれない。
(ちなみに現在10館17人のメンバーです。ご興味をお持ちの図書館員の方は
 気軽にお問い合わせください。)
この勉強会はネット上でのディスカッション以外に、特に活動があるわけで
はない。
だからどこに住んでいようと、活動に割ける時間があまりなかろうと、それ
ほど問題ではないので、参加の敷居は低いと思う。
また、特に各館での実践に向けた現実的な話を中心に据えている点も特徴か
もしれない。
先に紹介した野田市立図書館の事例は、もちろん担当者の高い力量があって
のことだが、その方を中心にこの勉強会で検討されていたことも、多少はお
役に立ててもらえたのではないかと思う。

意欲も能力も高い人が、権限がないためになかなか能力が発揮しにくい状態
にいるという声は、図書館に限らず様々な職場から聞こえてくる。
だが図書館の場合、様々な制約の中でも、案外できることは少なくないよう
に僕は思う。
Webの活用というのは、壁を突破する手段として利用できる面があるし、図
書館員同士の情報交換や連携は大きな力にもなり得る。
だから僕自身も、この勉強会をはじめとした様々な人のつながりを活かし、
情報サービスや情報の蓄積などについて、今後も検討し試行錯誤していけれ
ばと思っている。

田圃
    http://d.hatena.ne.jp/t_rabi/