([本]のメルマガ vol.393より)

                                                                                                                                    • -

■「図書館の壁の穴」/田圃

                                                                                                                                    • -

第32回 クラウド

最近、コンピューター関係誌ばかりか経済誌、さらには新聞などでも「クラ
ウド」という言葉を目にする機会が増えつつある。
だからというわけでもないのだが、最近僕は三菱総合研究所主催の「クラウ
ドユーザー研究会・企画説明会」というものに参加した。

クラウドコンピューティングとは、インターネットを使ったコンピュータの
利用形態のことで、ユーザーはコンピュータ処理をネットワーク経由でサー
ビスとして利用するものだ。
自らサーバーを用意する必要がないので、初期投資を低く抑えてシステムを
構築することができる。
さらに通常のシステム構築では、サーバーの負荷が最大になるケースを想定
して機器を選定するのに対し、クラウドではワンクリックでメモリやディス
クを即座に増減できるので無駄が抑えられるという。
それだけ手軽ならば、コストを抑えられるばかりか、仕事のスピードがまる
で違ってくるのも頷ける。

このクラウドユーザー研究会では、今後公共図書館向けのクラウド型図書館
システムのプロトタイプ検証を進め、将来的には商用化するのだという。
プロトタイプにはあの「Project Next-L」のEnju(えんじゅ)を採用している
ので、僕はこれに特に興味を持った。

このメルマガのvol.363(2009.07.15発行)に、図書館員が集まって新しい図
書館システムを作るグループ「Project Next-L」の話を書いたので、ご記憶
の方もおられるかもしれない。

 ○vol.363(2009.07.15発行)http://back.honmaga.net/?day=20090715

クラウド型のEnjuならば、まずは試験運用から手軽に始められる。
そこから徐々に、本格運用に移る館が増えていく可能性もあるだろう。

近隣自治体が揃ってこれを利用すれば、まず各館の検索画面が同じになる。
それによって、図書館利用の敷居が少し下がるかもしれない。

また、同じシステムを各館が使うのだから、それらを一括で検索するのも簡
単で、現状の横断検索システムよりも、遥かに高精度で高速な仕組みが容易
に手に入る。

仮に蔵書10万冊の図書館を10館同時に検索できれば、100万冊の中から一度
に検索できるのだから、現状の自館の蔵書しか検索できないOPACと比べれば
必要な資料を発見できる確率は上がるだろう。

探す資料にもよるが、まず最初に地域の図書館OPACで本を探すよりはAmazon
で先に探すという人の方が、現状はずっと多いんじゃないかと思う。
その理由のひとつに、ひとつの図書館の蔵書しか探せないOPACに対する期待
の低さがあると思うが、これでその点は少しは改善できそうな気がする。

仮に大半の公共図書館クラウドで同じシステムを利用するようにでもなれ
ば、結構強烈なインパクトになるかもしれない。

これまでも所蔵していない資料は、図書館間相互貸借で取り寄せるとか、必
要に応じて購入するなど、できるだけ求められた資料を提供するサービスを
公共図書館は展開してきたのだが、そのことを市民の何割が知っていただろ
うか?
そんな図書館の資料提供機能の可視化が、クラウド型図書館システムによっ
て進めば、用途に応じて積極的に図書館を利用してみようという層が増えそ
うな気もする。

              *  *  *

もちろんただクラウドに乗り換えれば、必ず明るい未来が約束されるという
単純な話ではない。

これからの図書館サービスを考えるのと並行して、クラウドによって、必要
な人に対し必要なものを、必要な時に提供する仕組みが確立できるのか、と
いう視点で検証しなければ、実際に使えるものにはならないと思う。

利用する人も、それを提供するスタッフもわくわくするような図書館サービ
スの将来像を描くための一つの手段として、クラウドが有効なのかどうかを
よく見極めていく必要性を感じている。

そんな意味で、このプロトタイプ検証は図書館員にとって非常に効果的なト
レーニングの機会になるかもしれない。

クラウドユーザー研究会」のプロトタイプ検証ワーキンググループでは、
まず第一段階として今後約半年間、Enjuクラウド環境で動かして機能検証
し検討を進める予定となっている。

検証が済めば、自治体がクラウドサービスを実際に導入できるよう、必要に
応じて法制度の改正や調達・導入のガイドライン策定を政府に提言するなど
三菱総研が本格的に動き出すそうだ。

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お知らせ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  クラウドユーザー研究会プロトタイプ検証ワーキンググループの
  参加者を現在募集中です。

  実際にネット越しにクラウド版のEnjuを操作して、ここが悪いと
  か、もっとこうして欲しいと伝えることが主な任務だと思います。
  (まだ始まってないので、あくまで予想ですが)

  普段図書館で仕事をしている人なら、知識面は問題ないでしょう。
  とりあえず参加してみて、自分には無理だと思えば引けば良いで
  しょうし、とりあえず覗いてみるだけでも、得るところはきっと
  あると思います。

  参加は無料。
  第一期の活動期間は今年の10月までで、随時参加受付中です。

  少しでも興味を持たれた方は、下記サイトからエントリーをお願
  いします。

  クラウドユーザー研究会http://cloud-mri.force.com/index

  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

田圃
    http://d.hatena.ne.jp/t_rabi/
 6/9(水)、埼玉県図書館協会総会の記念講演で登壇予定です。
 埼玉県内の図書館の皆さま、よろしくお願いします。
 また同日同時刻、ネットアドバンス主催のジャパンナレッジフレンドシッ
 プセミナー(如水会館@東京竹橋)で、当館スタッフの石田好一が講演予定
 です。そちらもよろしくお願いします。