([本]のメルマガ vol.333より)

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■「図書館の壁の穴」/田圃

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第22回 雑誌目次データはどうなる?

 先月から、TRCが雑誌データのサービスを開始している。

 図書・映像資料データベースと流通サービスを統合した図書館専用webシ
ステム「TOOLi」(ツール アイ)上で、図書館向けに今年度中は無料公開され
ている。次年度からは有償となるそうだ。
 提供されるデータは、書誌情報が約3,000タイトルで、その内420タイトル
は目次も収録されている。目次収録誌は今後さらに増やす予定だという。

 次年度からの価格は既に宣伝用パンフレットに記載されているが、それは
図書館が100タイトル程度の目次を自前で入力する際の人件費と比べると、
圧倒的に安い。
 この目次データを図書館システムに取り込むには、システムのカスタマイ
ズが必要だが、その費用を含めて考えても、トータルでの費用対効果は高い
だろう。

 雑誌目次データを、実際にTOOLiで確認してみたが、データ構造は1記事
1レコードの記事索引同様の形となっており、非常に丁寧に入力されている
印象を受けた。
 検索システムもかなり洗練されていて、このインターフェースでそのまま
自館の雑誌検索システムが作れればいいのに、と思うくらいだ。

このTRCの目次データが、今後公共図書館の雑誌目次データの標準フォ
ーマットになっていく可能性は高いように思う。

             *  *  *

 大学図書館では、この5年くらいの間に、CiNiiで公開される「学術コンテ
ンツ登録システム」に対応したデータフォーマットが雑誌目次データの標準
形式となったが、公共図書館については、依然として標準フォーマットが存
在しない。

 多くの公共図書館は、一部を除く大半の雑誌を数年で廃棄してしまうから、
恐らく目次データを蓄積するという発想がなかったのだろう。
 だが、目次が検索できなければ数か月前の記事でさえ、事実上はアクセス
不能になってしまうのだから、それではあまりにももったいない。

 だからといって、各公共図書館が、独自に所蔵雑誌の目次を入力しようと
すると、標準的な入力フォーマットがないから、まずはどう入力すればいい
んだ?というところから問題になってしまう。

 各メーカーの公共図書館用パッケージシステムに、一通りの目次管理機能
はついているが、データフォーマットは各社バラバラで、図書の書誌データ
のように統一されてはいない。
 記事単位でレコードをつくる記事索引方式もあれば、雑誌1冊に対してテ
キストや画像で1冊分の目次を丸ごと貼り付ける方式もあるという、混沌と
した状況だ。

             *  *  *

 総務省統計局の日本統計年鑑によると、2005年時点で国内雑誌は4,581タ
イトル発行されたという。
これに対して、2007年現在の公共図書館数は3,111館。
 だから例えば、1館あたり2タイトルの目次データを継続的に登録し続けた
とすれば、国会図書館に頼らなくても、出版されているほとんどの雑誌の目
次情報データベースをつくることができるという理屈になる。

 以前、この連載の8回目で、国会図書館雑誌記事索引づくりに各公共図
書館が参加して、成果を共同利用できるようにすればいいと書いたが、国会
図書館の雑誌記事索引のフォーマットで、現状の市町村立図書館がデータ登
録を行うには、項目が細かすぎて負担が大きく、精度が維持できない懸念が
あるし、またそのデータを誰がどう管理するかという問題もある。

 そこで、以前考えたのは、単館で目次データベースをつくる方法として、
雑誌1冊ごとにフリーフォーマットのテキストデータをぶら下げておいて、
Namazuのような全文検索システムで検索するという方法である。
 目次データの入力効率=生産性を考えたら、それが一番いいんじゃないか
と思ったのだ。
 また、同じくこの連載で、出版社のホームページにアップされている目次
情報を図書館の雑誌検索に利用したいとも書いたが、Googleのキャッシュの
ようにホームページを丸ごと保存すれば、比較的容易にそれも出来るんじゃ
ないかと考えていた。

 しかしTRCフォーマットが標準になるならば、あとはそのデータを扱え
るシステムと、簡易入力が可能な業務用インターフェース、それにデータ購
入予算を確保するだけで、目次検索への道が開けてくる。

 結果的にそれが最善なのかどうかはわからないが、ともかく利用者が公共
図書館の雑誌の内容を検索できるようになるのだから、大きな進歩には違い
ない。

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 また大学図書館の例から挙げると、ほとんどの大学図書館は、国立情報学
研究所のNACSIS-CAT/ILLというシステムを利用している。
 NACSIS-CATは、参加している大学がそれぞれ書誌データを作成して、そこ
に自館の所蔵情報を付けるという共同目録システムで、それが目録所在情報
データベースとして一般にも公開されている。(※)
 NACSIS-ILLは、自館に所蔵していない資料を他の大学に貸出依頼するため
のシステムだ。
 いずれも、大学図書館サービスの重要な基盤となっている。

 公共図書館は、大学図書館よりも一般的にサービスが10年以上遅れている
といわれるが、このNACSISのような全国共通のサービスの基盤が何かひとつ
出来れば、そこから大きな進歩を遂げる可能性があるんじゃないだろうか?

 市町村立図書館にとっての都道府県立図書館や国立国会図書館は、資料を
貸し出してもらえるメリットこそ大きいものの、NACSISのような共通のプラ
ットフォームを提供しているわけではない。

 公共図書館の図書目録データをほぼ標準化し、続いて雑誌データ、雑誌目
次データも標準化しそうなTRCや、国内最大級の雑誌記事データベース
「MAGAZINEPLUS」などを持つ日外アソシエーツといった企業ならば、公共図
書館向けにNACSIS-CATのような目録所在情報システムを構築・運営すること
も十分可能だろう。
 また、NACSIS-ILLのようなシステムに加えて、全国的な営業ネットワーク
を活かして、物流までも含めた図書館間の資料相互貸借を担う仕組みが運営
できるかもしれない。

 CAT/ILLシステムはさておき、公共図書館間の雑誌目次データの共同登録・
共同利用システムの構築に話を戻すと、NACSISの運営は税金で賄われている
のに対し、こうした事業を企業がやる場合には、恐らく各図書館から参加費
を徴収することになるだろう。
 その際に例えば、単にデータを購入するだけの図書館よりも、雑誌目次デ
ータの登録に協力してくれる館の方が、より安く利用できるような価格設定
にするといった工夫も必要かもしれない。
 NACSISと比べてしまうと、有償で参加した上で登録作業も行うという無理
はあるのだが、各図書館が共同でその事業を支えるという考え方もできるの
ではないかと思う。
 企業が運営している以上、継続される保証はないが、登録されたデータの
権利を図書館が持ち、企業がそれを預かって運用するという契約ならば、サ
ービスが停止する際にも、それまでの蓄積を無駄にせずに済むだろう。

             *  *  *

 NACSISのように、どこか外部のサービスを軸とした、図書館同士の連携基
盤が確立されれば、議員や首長の意向、自治体の財政事情などに振り回され
っぱなしの公共図書館も、図書館界のルールを軸とした運営に、軌道修正で
きる可能性が出てくるかもしれない。

 5年前に大学図書館から公共図書館に移った当初から、そういう大きな環
境の変化がないと、全国的な公共図書館サービスのレベルアップは難しいん
じゃないかと思い続けてきた。
 単館の努力や工夫でできることもたくさんあるから、日々それに取り組ん
ではいるが、一方ではこうした枠組み自体の変化にも期待している。
 だから、今後の雑誌目次データの普及には注目していきたいと思う。

※NACSIS Webcat(総合目録データベースWWW検索サービス)
 http://webcat.nii.ac.jp/


田圃
 『ず・ぼん14』(ポット出版)に、レコメンド機能やブックリスト機能を盛
 り込んだ図書館システム構想の話を書きました。