• -

■「図書館の壁の穴」/田圃

                                                                                                                                    • -

第38回 地域に役立つ司書

 震災から約二ヶ月あまり。
 今回は震災をきっかけに改めて気づかされたいくつかの図書館サービスに
 ついて、ふれてみたい。
 震災直後には、、自館の復旧作業をしながら、いま市民向けにどんなサー
 ビスが必要だろう?と考えていた。
 地域の復興状況によって、必要とされる情報は刻々と変化していく。
 だからそれらを的確につかんで、迅速に情報を集めてタイミングよく提供
 していくことが重要となる。
 Webにアクセスできれば、それが情報獲得の手段として大いに役立ったと
 思うが、まだ誰もがそうしたツールを利用できるわけではない。
 だから日常的に、図書館が市民のリテラシー獲得支援に力を入れる必要性
 はあるのだが、「いまその時」に必要な情報にアクセスしたいという状況
 下で、そういうことを言い出しても仕方がない。

 ある程度ゼネラルな情報は、新聞やテレビに期待できたとしても、ローカ
 ルな生活情報は、Webなしではなかなか手に入りにくいということを改め
 て今回のことで感じている。
 知りたいと思ったときに、能動的に例えば断水、給水所、停電、避難所、
 ライフラインの情報、鉄道情報、ガソリンスタンドの入荷情報など手に入
 れることは、パソコンを使わない人にとっては特に難しかったんじゃない
 だろうか。
 そんな情報を、震災直後から勤務先の図書館で、紙媒体でもタイムリーに
 どんどん提示できていれば良かったと思うし、これからその点ももっと意
 識していこうと思った。
 
 例えば、僕が通勤に使っているJR水戸線は4/7に復旧したのだが、3月中は
 駅に「当分の間運休」という掲示が出ているだけで、いつ頃復旧するのか
 まるでわからない状態だった。
 そこで、公式サイト以外にtwitter2ちゃんねるでも情報を収集して、ど
 んな状況なのかを把握するようにしていたが、そういう手段のない人には、
 「見通しが立っていません」という以上の情報は手に入らない。
 それなら図書館に「twitter2ちゃんねるにこんな書き込みがあった」と
 貼り紙を出しても良かったのかもしれない、などと後になって思う。
 
 図書館が2ちゃんの書き込みを提供?と普段なら違和感を感じるところだ
 が、時と場合にもよるんじゃないだろうか?
 ○×駅で線路の点検してます/×○踏み切り付近の線路で工事始まりまし
 た/作業している人が、橋の強度を明日までに検査すると言ってました、
 などといった情報もあったので、1日も早く復旧してほしいと願っている
 人にとってはありがたかったかもしれない。
 出典は2ちゃんだと明記した上で、2ちゃんとは何かと説明を沿えて出す
 ならば、なるべく信憑性を確認することは必要だが、情報によってはそう
 いう手段もアリなのではという気がしたが、どうだろう?

 また僕の勤務先では、震災から開館までの間、毎日picasaで館内の復旧作
 業状況の写真を公開していたと前回ここで書いたが、あれを見られるのは
 Webを利用できる人に限られる。
 開館後、picasaを見ていたよと声をかけてくださる来館者も大勢いらした
 し、中には毎日見ながら応援してましたなどと言っていただき、一日も早
 く開館しようと頑張ってきたスタッフ一同、励まされたが、これもまた今
 にして思うと、picasaだけではなく、写真を印刷して入り口に掲示を出す
 ことも平行して出来ていれば良かったのではないかと思っている。
 
 また、図書館ばかりではなく、他の文化施設の状況や市の発信する情報も
 容易に入手できる立場だったのだから、それらを編集して出してみるなど
 まだまだやれることがたくさんあったと、今更ながら振り返ると思うこと
 はたくさんある。

              *  *  *

 知り合いが館長を務めているある図書館では、4/11より一部再開してから
 すぐに、地震原発放射能津波風評被害と農業と保険・火災保険・
 液状化と住宅の改修や耐震・節約/節電と東電・政府のお知らせなどを集
 め、印刷して館内で配布したという。
 また、災害などにおける防犯と防災・雇用や求人や保険・自治体の災害支
 援情報(罹災証明や保険に関する免除など)を更新毎にコピーして掲示
 たり配布してもいるそうだ。
 さらにそれに加え、3/11以降の県内の震災関連新聞記事を、新聞社の了承
 を得た上でファイリングして提供してもいる。

 それらをWebでも発信したいが、情報量が多すぎて編集が追いつかないと
 困っている様子だったが、地域の住民が「いま」必要としている情報を即
 座に判断・収集して動き出したその行動力はすごい。
 
 そのほかにも、それと並行して、市内の震災記録として市民に写真提供を
 呼びかけ、デジタルアーカイブとして公開しようと準備を進めているとも
 言う。
 日々刻々と動き続けるフローの情報を捕捉し届ける一方で、ちゃんとスト
 ックすべき情報も意識している冷静さは、被災状況を知っているだけに、
 尚更感心するし、見習いたいサービスのひとつである。
 
 また別の知り合いのいる図書館では、計画停電に関するレファレンスを何
 度も受けたので、地域の計画停電に関する情報を即座にまとめて掲示・配
 布するようにしたという。

 もちろん所蔵資料に関する情報発信は、図書館の仕事として重要なことな
 ので、だからこそ勤務先では普段から、本や記事を紹介するブログ、展示
 棚などに力を入れている。
 だが、それだけに終始してしまうのではなく、例えば「それは役所や商工
 会議所のホームページに書いてあることだから」と片付けてしまうのでは
 なく、住民が「いま」必要としている情報を常に積極的に提供してきたの
 かと自問すると、反省すべき点は多々ある。
 
 もっと多様な地域情報が、そこに行くだけですぐに目に付くような図書館
 になれば、「あそこに行けば何でもわかるんだ」と思ってもらえるかもし
 れない。
 そこからレファレンスをはじめ様々なサービスを知ってもらうようなアプ
 ローチを、今後はより意識したいと思う。

 どこから情報を集めるか、どの情報を選ぶか、どんな方法で発信するのか
 といった部分で、司書のスキルが活かせるかもしれない…というか、そう
 いうスキルを強化していかなければ、地域の情報拠点として頼りにされる
 のは、これから先かなり難しいような気がする。

 しかし、即座に住民が「いま」必要としている情報を察知して動けるよう
 になるには、具体的にどうすれば良いのだろう?
 こうしたことはマニュアル化はできないと思うが、意識や感度や能力の問
 題だと片付けてしまっては進歩がない。

 司書業務はそもそもマニュアルに従って処理すれば済む定形作業よりも、
 突発的な事象への対応の方が、実は圧倒的に多い。
 今更並べてみるほどのことではないが、対面サービスでの相手に対する想
 像力、資料整理における利用と保存を意識した個々の対処などなど、マニ
 ュアル通りでは済まないことばかりだ。
 
 そんな日常の仕事に、ちゃんと問題意識を持って取り組み続けることが、
 月並みながら最良の方法なのかもしれない。
 
田圃
    http://d.hatena.ne.jp/t_rabi