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■「図書館の壁の穴」/ 田圃
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第43回 外部Webサービスとの付き合い方

最近、Amazonのレビューやレコメンド機能、Googleのサジェスト機能などを
図書館システムと組み合わせることで、日常的に使っているWebに近い利便
性を実現しようという動きが見られる。
そんな仕組みを既に取り入れている公共図書館もある。

実際にそれを使ったところ、そんなに違和感はないのだが、中身はブラック
ボックスだというところが、やはり気になって仕方がない。
この路線に乗ってしまうと、ステルス・マーケティングに公立図書館が協力
するのかと突っ込まれたときに、答えに窮するんじゃないだろうか?という
心配も拭えない。

食べログ」のやらせ投稿問題など、普段からWebを多用している人にしてみ
れば、大したこととは思わなかった方も多いのではないかと思う。
僕自身も、恣意的な情報操作もあって当然という理解の上で、「食べログ
に限らず多くのサイトをいつも普通に利用している。

ただしこういった外部情報源の信頼性を、どう図書館利用者に伝えるのかと
いう、所謂メディアリテラシー教育について、もっと広がる前に議論されて
も良いのではないかという気がしている。
このまま「外部の膨大なデータと図書館を結びつければ、もっといいサービ
スができる」と突き進んでしまって良いものだろうか。

佐賀県武雄市の図書館が、TSUTAYAのTポイントカードを図書管理用カード
にするという話も最近は出ている。
貸出履歴は個人情報ではないので、TSUTAYAの購買履歴と同様にTSUTAYAが把
握しても構わないと市長は考えておられるようだ。
連携したシステムをどう作るのかなど今後の課題は様々あるので、現時点で
○とも×とも断じにくいところはあるが、少なくとも個人的な病気や悩みご
とについて図書館の本で調べるようなことも個人情報ではないとは、到底言
えないだろうと思う。

ず・ぼん14」(ポット出版.2008.9発行)に掲載された座談会で、僕は外部
サービスではなく、自治体が自前のサーバーで情報を保存し提供していくこ
との意義を語ったことがある。
あのときは、データを恒久的に保存する責任という意味で、自前でシステム
を構築した方がいいと述べた。

だが最近のWebの動向を見ていると、信頼性や責任の所在という意味でも、
千葉県の成田市立図書館が展開している自前のデータに基づく貸出履歴を利
用したレコメンデーションのような方向性が、やはり本当は好ましいように
思える。
利用者自身が、履歴を利用したレコメンドサービスを希望するかどうかを選
択する方式で、機能しなければ履歴は保存しないなど、個人情報保護への配
慮も行き届いている。
それを構築する予算は、そう簡単には確保できないと思うが、いま目標とす
べきは成田市立図書館のモデルだと思っている。

              *   *   *

あの大震災の時に、僕自身にとってtwitter2ちゃんねるの情報はとても
ありがたかった。
だがあのときに、ああいった情報を自己責任で活用できた人ばかりではない
だろう。
ガソリンスタンドの入荷情報などもWeb上ではある程度は追えたが、それを
活かせた層は限られていただろう。
また、ガセネタに振り回された人も相当いたはずだ。風評被害などはその最
たる例ではないかと思う。

情報にアクセスできるというスキルも確かに大事なことではある。
だがその時に、その情報の信憑性について根拠をきちんと確かめて行動した
人がどれだけいただろう?

そうしたことも含め、図書館司書が市民に対してどんな情報ナビゲーション
をすれば良いのか?どこまで前に出るべきで、どこからを自己責任だと言え
ば良いのかという、このあたりの現在地の認識や今後のベクトルといったこ
とについて、そろそろ本気で考えないといけないのだろうと思う。

たぶん、情報源を紹介するところまでが司書の仕事であって、内容の解釈は
ユーザーの自己責任だという考えの図書館が現状はほとんどだろう。

もちろん、図書館に置いてある本の中の一語一句についてまで自治体が責任
を持てるわけがないのだから、Webについてもそのスタンスが最終的な結論
としては正しいのだと僕も思う。
でも、いまのWebに関しては、それで済ませて良いとは思わない。
Webは本とか雑誌といった括りと同列で、要は媒体の種類でしかない。
だから、当たり前だが一概にWebは正しいとか胡散臭いとか言えるものでは
ない。
それならば個々のコンテンツの評価を、情報仲介者として司書はもう避けて
はいられないのではないかということを、もっと正面から考えた方がいいと
思う。

田圃
    http://d.hatena.ne.jp/t_rabi
 7月に図書館問題研究会の全国大会@仙台市の分科会でお話しします。


※結局、体調不良で仙台は辞退してしまいました。
 いつか借りを返さなきゃ…!