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■ 図書館の壁の穴」/ 田圃
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第42回 続・場としての図書館

今月、僕の勤務先では「震災からの復興」というテーマで資料展示を行って
いる。
当市は蔵の街として歴史ある街並みが特徴の観光都市ということもあり、古
い建物も多いことから、震災で一部倒壊となった家屋が多数あった。
今なお産業面で震災の打撃は大きいが、こと日常生活に関しては去年の春先
には、ほぼ回復した状況にあった。
普通の日常に戻ってしまうと、どうしてもやはり防災意識が日ごとに薄れて
いくものらしい。
僕自身は親戚が釜石市にいることもあり、昨年の春、陸前高田から釜石の沿
岸部などへ行った際のことを意識的に思い出すことも多く、毎日、河北新報
岩手日報のサイトをチェックしているが、日常的にそれを考え思い続けて
いるのかと問われると、正直心許ない。
被災地に縁がなかったりすると、遠いことのように感じている人も、もはや
少なくはないのだろうという気がする。

このメルマガのvol.435に、知り合いの仙台の図書館員さんが被災され、ご
自宅を失うなど大きな困難に直面していたことを知り、職場の有志と応援に
行ったという話を書いた。

今回、図書館で「震災からの復興」というイベント棚を展示するのにあたり
当館司書の選定以外に、彼が実際にどんな本を復興に役立ててきたのかを伺
い、彼のセレクトした本で棚をつくらせていただいた。

こちらの図書館がつくった棚では、地域の復興に関する話題を主とするとと
もに、東日本の各被災地を俯瞰した復興関連資料なども展示している。

仙台の彼がセレクトした棚では、被災期・避難期・復旧期それぞれのフェー
ズで実際に役に立った本を紹介している。
実用的な側面にのみこだわる必要はなく、シャンルに偏らず、被災時の読書
体験の紹介などもと依頼したことにより、予想以上に文芸書なども入り、バ
ラエティに富んだ棚になっている。

この展示期間中に、棚をつくった本人が市民に向けて直接話をする機会を設
けようと試みたところ、「被災したことを忘れられてしまうのが一番つらい
から、そういう場を用意してもらえるならば喜んでやらせて欲しい」と快諾
していただけた。
「被災時の事ばかり聞かれて辛い思いをするかもしれないが、ともかく足を
運んでいらした方達の聞きたいことに お答えしたい」と彼は言い、さらに、
「来場された方に何か「残るモノ」をお渡しすると、少しは忘れないでもら
えるだろうか?」という言葉を聞き、人々の記憶が風化していくことが、本
当にたまらない気持ちなんだな、と痛切に感じた。その思いの大きさを思う
と、まだまだ何も終わっていないという現実の一端を垣間見る思いがした。
そのトークの中で、自分のつくった棚の意味も自ら語ってもらうよう頼んだ
のだが、それは市民にその資料を見て欲しいということもあるし、派生して
他の資料に気づいてもらおうという意図もある。
また、文字ではなくナマの人がライヴで本を紹介することが、図書館でもで
きるという点にも関心を持ってもらえたらと思う。
極端に言えば、図書館が扱うのは本だけでなく、人が発する情報や人そのも
のもまでも扱うんだというところも伝えられたらいいと思っている。

ということで、当館のスタッフ以外にも他県の司書さんが何人もボランティ
アで手伝いを志願してくれるなど、かなり盛り上がった感じでイベントの準
備を進めてきたのだが…あるタイミングで状況が急変してしまった。

ややこしい大人の事情により、当座このイベント棚のうち、トーク部分の企
画は、当館では見送らざるを得なくなってしまったのだ。

前回この連載で、僕は「場としての図書館」という文を書いた。
その手始めとして、これは必ず成功させたいと思っていたのだが…

ところが捨てる神あれば拾う神ありで、隣市の公民館を会場に開催したらど
うかと即座に動いてくれる方など、何人もの同業の仲間たちがこれをどうに
か実現させようと、猛烈な勢いで奔走してくれた。

まずは筑波大学附属図書館さんに、こちらの意志を継いで仙台の彼を招いて
の講演会を催し、僕の勤務先のイベント棚の紹介まで引き受けていただける
運びとなっている。

 ○筑波大学附属図書館
  「震災から学ぶ本棚 -IMAGINE THE FUTURE with books.- 」
   http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/w5lib/?p=1971

こういうネットワークは本当にありがたい。

技術的なことでも業務上のことでも、はたまた職場の人間関係のことでも、
普段の会話のお題は何だって構わないが、ともかく困ったときに相談しあえ
るコミュニティがあることはやはり大きい。

自分が立ち上げて、たくさん恥をかきながら引っ張って、全国各地に広がり、
現在は50名超に膨らんだ「公共図書館Webサービス勉強会」の人たちの協力
に本当に支えられ、応援してもらった。
時にはこんなこともあるから、恥をかいたり苦しもうとも、自らを晒して行
動することも悪くはない…という気がしている。

田圃
    http://d.hatena.ne.jp/t_rabi