([本]のメルマガ vol.219より)

                                                                                                                                    • -

■「図書館の壁の穴」/田圃

                                                                                                                                    • -

第3回 公共図書館がなぜ必要なのか

 店内に椅子をたくさん置いたり、飲食しながら本を選べる大型書店が増え
ている。そんな居心地がよい書店が近くにあれば、図書館を必要とする人は
減るのだろうか。
 書店が、どんなにゆっくり本を選ぶ場を用意していても、本が商品である
以上、図書館の閲覧席のように、調べ物や学習に使ってもよい場所ではない

普通書店では、商品の検索はしてくれても、具体的な調べものを手伝ってく
れるわけではないし、売り場にない本をリクエストするならば、購入すると
いう前提での注文となる。
当たり前のことだが、そんな日常的な利用に関する違いは大きい。

 だが、何よりも書店と図書館が決定的に違うところは、図書館は本を保存
するということではないか。
 書店の本は商品で、棚の内容は常に回転していく。出版点数が増え、発行
部数が減っていることも大きいだろうが、どんなに売れた本でもいつかは棚
から消えてしまう。

 昔の本は古書店にある。でもそれも、売れてしまえば読むことは出来なく
なる。新刊書店もそうだが、書店の本は売り物なのだから、いつまでも棚に
あるとは限らない。古書店がない地域では、図書館がなければ昔の情報を直
接手にすること自体が難しい。

 例えば去年の雑誌に出ていた記事が見たいとしても、それがどこにも存在
しないのでは困る場合もあるだろう。
 有料のオンラインデータベースがあるといっても、やはりオリジナルの資
料そのものに触れなければ、わからないことが多いのも事実だ。
 昔の本が保存されている場所として、文化の保存装置のような機能は、も
っと評価されてもいい。
 僕は、この点が公共図書館が必要である理由としては一番大きいんじゃな
いかと思っている。
              *  *  *

 売れるかどうかに関わらず、本を並べておけるのが図書館の強みだ。
利用の多寡とは関係なく、受け入れた資料を等価に扱い、滅多に利用されな
い資料であっても、将来何かのときに役立つ可能性を考えて、できるだけた
くさん保存しておくことに意味がある。

 図書館には、調べものばかりじゃなく、様々な本との出会いの場としての
存在意義も確かにある。
 いずれにせよ、販売のために市場を意識して棚をつくる書店とは、違った
本が見られるということは、本との出会いの機会を提供することになると思
う。

 だが、娯楽志向の強い公共図書館界で、独自色を打ち出した図書館をつく
るのは、案外難しい。公共図書館とはこういうものだと、という固定概念に
よって、働く職員にも、世間にも様々な壁がある。

 自館の所蔵していない資料を、図書館間の本の貸し借りで補う「図書館間
相互貸借」というのを、どの図書館でも大抵はやっている。
 各図書館の所蔵資料に多様性があればあるほど、その効果は大きい。
 それなのに、どうも困った現実があるらしいということが見えてきた。

 実際に、図書を納入している業者から「そちらの図書館は、他の図書館と
購入する本が全然違う。一体どういうことか?」という問い合わせが先日あ
った。
 これは、公共図書館が買う本はこれ、と予測して、あらかじめ現物を確保
し注文に備えているというのに、一体どうなってるんだ?という意味の問い
合わせらしい。
 書店が買い手のニーズを分析し、それに対応した物流の仕組みを構築した
のだから、その企業としての姿勢は素晴らしい。それによって、迅速な納品
を実現しているのだから、図書館にとってはありがたいことだ。
 だがそれは、公共図書館はどこも同じような本を買っている、すなわちど
の図書館にもある本と、どの図書館にもない本というのが、ある程度明確に
存在する、ということを意味する。
 各図書館は地域性や、自館の特色作りを意識した資料購入が必要なはずだ
。それなのにどの図書館も同じ本ばかり買ってしまうのは、図書館員が本を
選ぶための選書方法に問題がある。

 公共図書館が本を選ぶ際に使うツールは、書店や取次から送られてくる新
刊案内がメインだ。それに掲載されているリストは、すべての資料が等価で
書かれているわけではなく、お勧めの本に重み付けのされたものであったり
、専門書が欠落したものである場合が多い。
 公共図書館がよく買う本をセレクトした、パック販売のようなものもある
ので、そういう契約を結べば適当な本が自動的に納品されるようにもなって
いる。
 しかし、そんな消極的な選書の結果、どの図書館も同じ本を買うという事
態になっているということは、図書館員は理解しておいた方がいいと思う。

              *  *  *
田圃兎:1969年生まれ。
     SE、大学図書館員、市立図書館設置準備室を経て、現在は
     2004年にオープンした市立図書館の職員。
     上司が療養で不在になったため、当分は副館長の代理も兼ね
     る羽目に。仕事倍増で目下体重激減中。