([本]のメルマガ vol.237より)

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■「図書館の壁の穴」/田圃

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第6回 情報収集

図書館で、来年度導入するオンラインデータベースを物色していたところ、
面白いものを発見した。今回は「情報発信?」を書く予定を変更し、そのデ
ータベースを紹介したい。

大学図書館専門図書館では、既にごく当たり前に使われている「CiNi
i(Nii論文情報ナビゲータ)」が、実は公共図書館にとっても、かなり
強力なレファレンスツールであることに、今更ながら気付いたのだ。

CiNiiというのは、NII(国立情報学研究所)が提供しているデータベ
ースサービスだ。

そういえば3年位前だったと思う。僕が大学図書館を辞めるちょっと前に、
NIIから「大学で保管している紀要を、昔のものから遡って全部1部ずつ
送ってくれたら電子化しますよ。その代わりデータはこっちで公開させて下
さいね」といった内容の通知を貰った記憶がある。

CiNiiは、そうして構築された大学紀要の論文検索・全文表示のシステ
ムに加えて、元からあったNACSIS−IRという学術系オンライン情報
検索システムと、NACSIS−ELSという国内の学協会が発行した学術
雑誌を収録した電子図書館システムとを統合したものだ。
現在では学会誌や大学研究紀要の論文が、約210万件も閲覧できるという

利用料金は、大学図書館だと規模に応じて料金設定されている。所属する教
員・研究員の人数が500人ならば年額262,500円、1,000人で525,000円、
2,000人なら1,050,000円。ところが公共図書館の場合、自治体の規模に関係
なく破格の年額52,500円だ。
研究論文の検索と閲覧だから、確かに大学と比べて公共の利用は圧倒的に少
ない。だから料金が安いのもわかる。
それに、NIIは元々は国立の東京大学情報図書館学研究センターから始ま
って、現在は大学共同利用機関法人なのだから、民間企業が出す商用オンラ
インデータベースと比べれば、収益を考えずに済むということもあるのだろ
う。

こんな研究者向けのデータベースが公共図書館で役に立つのか?と思われる
かもしれないが、これが実は相当役立ちそうなのだ。


・国名の略字には米とか仏とか西とかいろいろあるが、なぜその表記に
 決まったのか、その経緯が知りたい

石綿アスベスト)が人体に及ぼす影響について詳しく知りたい。

青色発光ダイオードの開発過程と研究成果が知りたい。また、現在どんな
 ものに利用されているのかも調べたい。

戊辰戦争の頃、土佐藩士・上田楠次が流山から小山まで転戦したころを詳
 しく知りたい。特に結城で死亡したといわれる説は正しいのかどうかを確
 認したい。

・秘密警察のような組織は日本にあるのかが知りたい。また、政府による国
 家防衛の機関は自衛隊以外に何があるのかを調べたい。

これらはいずれも、勤務先の市立図書館で最近受けたレファレンスだ。
公共図書館大学図書館専門図書館のように深い内容を扱うのではなく、
広い分野をある程度のレベルでカバーすればいいと思われがちだが、実際は
そう簡単な質問ばかりでもない。

CiNiiの論文検索機能は無料で誰でも使えるようになっている。そこか
ら先の文献の本文表示には契約が必要になっているのだ。
これらのレファレンスについて調べる時に、CiNiiを使ってみたところ
、いずれもその分野の研究論文があるということまでは即座にわかった。
文献そのものを読めば、一発で問題が解決すると思ったものもあったのだが
、勤務先はCiNiiの利用登録をしていないので、即座に画面上で本文を
見ることが出来ず、かなり悔しい思いをした。

こんなことが最近割と頻繁に起きていたし、もっと遡って見直してみると、
CiNiiが使えれば解決できたはずのレファレンスは、もっと沢山あった
ような気もしている。

来年度はこの「CiNii」をフルに活用して、「図書館ってこんなことま
で調べられるんだ!」と利用者に驚いてもらえるくらい、レファレンスサー
ビスの質を上げたいものだと思う。

僕がここまで期待してしまう強力な調べものツール「CiNii」だが、公
共図書館で働いていると、自発的に注意して探さない限り、こんなものがあ
るという情報はなかなか入ってこない。
これは、調べものを生業とする司書として危機的な状況だと思う。

一般に公共図書館は、NIIに限らず、法律や特許、医薬といった専門情報
の探し方に関しては非常に疎い。
知っていれば大幅に自館のサービスが強化できる可能性があるというのに、
そういう情報を得る機会がかなり少ないのだ。
何もすべての公共図書館専門図書館並のレファレンスサービスをやらなく
ちゃ、というのではないが、専門的な情報源に辿り付く方法も、できるだけ
多く知っておいた方がいいと思う。

専門的な情報源に関する情報が、公共図書館では入手しにくいという状況は
公共図書館員の怠慢ばかりが問題ではないだろう。
逆に「公共図書館はこの程度でいいだろう」という世間の認識がフィルター
になっていることも、大きな原因じゃないかという気がする。

IT関係もそうだし出版流通関係にしてもそう。待っていて届けられる情報
は、何らかのフィルターを通した情報だ。
やはり、本当に必要なものを選択していくには、自発的に探して確かめるし
かないようだ。

●CiNiihttp://ci.nii.ac.jp/