([本]のメルマガ vol.243より)

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■「図書館の壁の穴」/田圃

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第7回 デジタル資料の保存

 インターネット上の情報を、文化資産として将来の世代のため蓄積し保存
するという、国立国会図書館のWebアーカイビングプロジェクトWARP(インタ
ーネット資源蓄積実験事業)の動きが最近気になる。

今のところ、政府や都道府県、各種法人など限られたジャンルのサイトだけ
を選んで蓄積しているが、この3月に出された「日本のWebサイトの網羅的収
集、蓄積及び保存に関する調査報告」では、本と同様の納本制度的なやり方
や、サイト運営者による自主的な登録制度など、様々な方法でより多くの
Webサイトを保存するよう、検討を進めていることが伺える。
ちなみに同調査報告によると、平成17年3月現在の日本のインターネット上
のリソースは、約18.4TB・4億5000万ファイルだそうだ。
現在は定期的にデータを採取し保存しているようだが、いずれはRSSみたい
な技術を積極的に利用して、更新の度にどんどん保存していくことも可能に
なるのだろう。
一体どれだけのサイトを網羅するようになるのかはわからないが、内容の変
化に応じて定期収集し保存し続けるというのは、本当に気が遠くなるような
話だ。

 WARPは、例えば合併で消滅してしまった自治体や、企業のホームページも
保存し公開しているので、今現在も様々な図書館の現場で役立っている。
地方の市町村立図書館が、このような大規模なプロジェクトを実施するのは
無理だが、これを参考に地元の情報が掲載されたホームページを網羅的に集
めて、保存するのも面白い図書館のデジタル資料になると思う。
そして、ホームページデータベースの構築と並行して、例えば郷土史研究サ
イトを紙に出力し、製本して保存することを考えてみてもいいと思う。
そういった蓄積の過程で必要になる情報の編集は、今後の図書館にとって重
要な仕事になっていくような気がする。

保存という観点からこうした動きを見ると、それだけの情報を責任を持って
長く保存するというならば、デジタルのまま持ちつづけるだけで良いのだろ
うか、という不安も感じる。

確かに保管場所を考えればデジタルの方が有利だし、強力なリンクや検索の
機能があるから利用面でもデジタルが圧倒的に便利だ。
けれども、正倉院の宝物ではないが、本気で文化的な資産として情報を数百
年単位で保存する気があるならば、紙で保存することを同時に検討してもい
いような気もする。

記録媒体や記録方式の変化の速さを考えると、現在のハードディスクだって
、先はわかったものではない。例えば、フロッピーディスクに入っているデ
ータを利用することも、徐々に難しくなっているし、レーザーディスクの資
料を大量に抱えながら、再生機器の維持に頭を悩ませている図書館も数多い
。データを保存するために媒体変換やエミュレーターソフトの開発を重ねて
いくとしても、予算の制約や人為的なミス等、様々な原因で漏れてしまい、
結局は使用不可能な情報が発生することも予想される。
だから、デジタル情報の保存と同時に、安定した紙の上に定着させて持って
おくことも重要なんじゃないかと思う。
もちろん全部を紙にするのは無茶なことだし、ホームページの作りによって
は、紙に出力することに向き不向きがある。基準を検討しながら、選定と蓄
積を試行錯誤してみてはどうだろう?

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メルマガも、ホームページ上でバックナンバーも公開されているケースが多
いが、サイトが閉鎖したら見られなくなってしまうし、そもそもメールやパ
ソコンが使えない人は、見ることが出来ない。
だから勤務先の図書館では、印刷して、普通の雑誌と同じく公開したり保存
したいと思い、1年程前からメルマガを紙にして扱うようにした。

地元や近隣の自治体や商工会議所などが出しているメルマガは、残念ながら
休眠状態のものや、紙の広報と大差ない内容のものが多かった。
そんな中、以前から個人的に購読していた「[書評]のメルマガ」は(「本の
メルマガ」読者の方にはすっかりお馴染みと思いますが)、扱う本が新刊既
刊を問わず、ジャンル不問。本が好きで堪らない人が非営利で好きなように
書いているのが特徴的で、公共図書館で本を紹介するのにとても参考になる
し、面白いと思った。

これを図書館の資料として扱ってみたいと考え、発行人の方に連絡して、許
諾を得ることができたので、バックナンバーを含む全ての号をバインダーに
綴じて雑誌架に並べている。カウンターの内側から眺めていると、手に取る
人がかなり多い。
メルマガで紹介されている本を全部図書館で揃えることは難しいので、利用
者からの要求に応じきれないようなケースもあるが、紙で提供してみた感触
はかなり良好だ。
ともかく、デジタル資料の保存に加えて、コンピューターが苦手な人への情
報提供という意味でも、これは成功だったと思う。

今後、こうしたものを積極的に増やす予定で、今も幾つかの発行元と調整を
進めている。
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WARPのような圧倒的なスケールの話を聞くと、国立国会図書館や大規模大学
図書館などとは違って、小さな市町村立図書館にできることは、ごく限られ
ているという現実を改めて思わされる。
でも、小さな手間を継続することで大きな違いを生み出せるような機会はい
くらでもあるし、大規模館には出来ないような、地域に密着した図書館なら
ではの情報の扱い方もある。
そんな館の独自性やサービスの指向性を意識した仕事の積み重ねが、魅力的
な街の図書館づくりには大切なことじゃないかと思う。

国立国会図書館WARPhttp://warp.ndl.go.jp/