([本]のメルマガ vol.273より)

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■「図書館の壁の穴」/田圃

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第12回 「共同アウトソーシング推進」を考える

 「すべての自治体がおちこぼれることなく、電子自治体を構築しましょう
」という政策が、総務省主導で推進されている。
 住基ネットがその代表みたいなものだが、そうした政策の一環で「共同ア
ウトソーシング推進」というのがあって、そこでは幾つかの自治体が共同で
システムを調達すれば安く済むんじゃないかという検討が行われている。

 通常システムを導入する場合、大なり小なり業務に合わせてシステムを改
造するものだが、これを複数の自治体が共同でやれば、改造費を折半で済ま
せられる。
 それだけではなく、このプロジェクトでは、共同アウトソーシングの成果
物である自治体用の文書管理や財務会計など様々な業務システムが、行政ネ
ットワーク上のサーバーに全部置かれ、それを無料で別の自治体も利用出来
るのが大きな特徴となっている。
 ここまですることで、ともかくおちこぼれを出さないようにするというの
だから、政府の意気込みも並大抵のものではないのだろう。

              *  *  *

 この共同アウトソーシング推進の検討資料として、現在の各市町村のシス
テム経費が去年の暮れに公表された。
 それには図書館のシステムも含まれていて、システム構成、処理形態、稼
動開始年月、費用などが一覧できるようになっている。
 これはあくまで経費の一覧なので、そのシステムを使ってどんなサービス
をしているのかには全く触れられていない。

 役所のサーバーを間借りして、ソフトだけを調達する図書館と、サーバー
管理やセキュリティ対策、さらにはネットワーク敷設工事まで自前でやって
いる図書館とが、同列の扱いでただ金額だけ並べられているので、この資料
だけを見れば「ウチのシステム費は何で隣町よりこんなに高いんだ?」とい
う話になる場合もあるだろう。
 これは、大きな金額を並べて見せて、共同でやれば一気に安くなると説明
するための、言ってみれば恣意的な資料なのだが、一覧できるよう並べられ
た数字のインパクトは大きい。
 このため、対外的な説明に奔走せざるを得なくなった図書館員も、少なく
ないだろうと思う。
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 それはさておき、共同アウトソーシングのコンセプトと絡めて図書館を考
えてみること自体は、何か面白いことに繋がるんじゃないかな?という気も
する。

 これまでに、図書館の持つ書誌データは国立情報学研究所のNACSIS-CATを
はじめとした各種MARCにより標準化が進んできたが、所蔵データに関しては
必ずしもそうではなかった。
 確かにNACSIS-CATに所蔵登録されているデータは、NACSISのルールに則っ
て標準化されているが、各図書館が持っているデータのフォーマットはシス
テムごとにバラバラだ。だから、別のメーカーのシステムに切り替える場合
には、データ移行に大変な労力が必要となる。

 いっそ業務パッケージそのものが統一されれば、自館のOPACと同じ精
度で全図書館の所蔵データを片っ端から横断検索することも可能になるし、
自治体の都合に応じた図書館の統廃合にも容易に対応できるようになる。
 各図書館のシステムを共同で調達して、安く買いましょうという話に留ま
らず、業界標準の図書館システムをつくりましょうという話になれば、書誌
に限らずほとんどすべてのデータの標準化が可能となる。

 だが現実には、スタッフの数や質、本や雑誌の購入方法、予算規模や運営
方針、そして各自治体独自の図書館政策が違っているから、システムを揃え
ましょうと言っても、簡単にはまとまらない。

 ところで、ご存知のとおり義務教育課程のカリキュラムは、大都市も離島
も原則的に同じである。大学ならば、この規模の学校には、この程度の図書
館が最低限必要だという設置基準まである。
 そこまで徹底しなくても良いとは思うが、せめてシステムを揃えられる程
度に、すべての公共図書館の組織体制や予算額の最低限の基準を決めてしま
ったらどうだろう?
 要件を満たした自治体には助成金が出るとか、何かメリットを提示すれば
それくらいは出来るかもしれない。

 そうはいっても、この最低限というのが曲者で、基準を満たしてしまえば
、あとはもう努力しないという悪弊の原因にもなるなど、いろいろ課題は多
い。
 だが、役場や学校のない自治体はないのだし、図書館が社会に不可欠なイ
ンフラである以上、これくらいに考えてみても良いかもしれないと思う。

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 基準が制定された場合、最終的に全図書館のシステムは1つで済む可能性
もある。
 そうなれば、組織の統合までは難しいとしても、国立国会図書館都道
県立図書館・市町村立図書館という枠組みではなく、少なくとも利用者側か
ら各公共図書館がシームレスに利用できるようになるかもしれない。

 今でも、他の公共図書館の本を借りることは、ある程度は可能だが、都道
府県立図書館が中心となって、傘下の市町村に本を回す場合がほとんどだ。
 県境を越えたやり取りになると、同じ市町村立図書館同士でも手続や規則
がバラバラで、司書も相手館に確認しなければ費用や到着日、貸出可能な期
間などはわからないのだから、図書館利用者にとっては、尚更わかりにくい
。それがシステムの統合によって、統一ルールですべて簡単に済むようにな
る可能性は高い。
 そういったわかりやすさのもたらすメリットは、頭で考える以上に大きい
んじゃないかと思う。

 システムの統合の要件だけではなく、各図書館間で人事交流をどんどんや
れるような風通しの良い組織体にすることも、その基準に盛り込んでおけば
さらに良いと思う。
 事務職が数年図書館で働いて異動するような人事ではなく、運営母体の異
なる図書館間の異動を考え、専門職としてのキャリアパスをきちんと構築し
た方が、司書のレベルは上がるだろう。

 そんな政策が上手くまとまれば、今より利用者サービスが向上する可能性
があるだろうし、長期的には、国全体で見た場合の図書館運営コストは格段
に下げられるかもしれない。
              *  *  *

 共同アウトソーシングは、システム経費の問題だけを考えるのではなく、
政策とセットで考えなければ意味がない。
 僕の挙げた例は相当な暴論だが、いっそこれくらいのスケールで図書館政
策を考え直してもいい時期かもしれないな、とは思う。

田圃