([本]のメルマガ vol.345より)

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■「図書館の壁の穴」/田圃

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第24回 導線をどう描くか

 昨年11月に、パシフィコ横浜で第10回図書館総合展が開催された。
 そこで、新聞や雑誌、法令や企業情報など様々なオンラインデータベース
紹介を見ていて思ったことがある。

 それぞれの商品は魅力的だが、もう少し図書館側のニーズを考えても良い
のではないだろうか。

 例えば、自社の販売するオンラインデータベースを軸に、その地域に応じ
たビジネス支援システムのようなものを提供してはどうだろう?
 それには自社のデータベースだけでなく、研究機関等が無料公開している
データベースや、近隣図書館のOPACを横断検索する機能も欲しい。
 さらに、地元企業が情報を発信できる場を設けたり、図書館利用者間の情
報交換の場も取り入れたりすると、より魅力的な商品になる可能性があると
思う。

 各館に応じたカスタマイズやメンテナンスができないならば、いっそ各図
書館のトップページから自社サイトに利用者を誘導して、そこからデータベ
ースとOPACを横断検索する形を考えても面白いかもしれない。
 これは、以前この連載で書いたYahooやGoogleが図書館システムのパーソ
ナライズ化を担う話と同じことだ。

 図書館側から見ればポータル構築のアウトソーシングになるが、各館共通
OPACのフロントエンド処理を構築してもらえることにより、現在普及して
いる図書館システムにはできないことも、スケールメリットで比較的安価に
実現できるのではないだろうか。

 僕が以前から言っている図書館サイト側でMyLibrary機能を持つこととは
逆になるが、肝心なのは利用者が手にする結果なので、それが一緒なら、ど
ちらの方法でも良いだろうと思う。

 ところで、横断検索の問題点について。

 調べものをする場合、まずはGoogleやYahoo、AmazonWikipediaなどを使
うという人が多いが、そこからさらに図書館のサイトでも探してみようと思
うケースは、実際のところあまり多くはないように感じる。
 ほとんどの都道府県立図書館が、傘下の市区町村立図書館を横断検索する
システムを公開しているが、図書館カウンターで利用者と接していると、そ
ういうことを知っている人は決して多くはない。
 そんな便利なシステムの存在をPRできていないことも、大きな問題だが、
それとは別に、この横断検索システムの機能には、まだまだ問題が多いのも
事実だ。
 各図書館のシステムごとに検索方法のクセがあるので、実際に検索してみ
ると、かなり漏れが出やすい。
 これは図書館間の横断検索ばかりでなく、iGoogleとかMyYahooから検索で
きる仕組みや、FirefoxGreasemonkeyAmazonの検索結果のページに図書
館の所蔵を表示させる場合など、図書館の外部からOPACを検索するものは、
いずれも同様に検索漏れが出てしまう。

 ※Greasemonkey=クライアント側で読み込んだページを加工するFirefox
         のアドオン。

 検索漏れの原因は、GoogleやYahooなどのインターネット上の一般的な情
報検索と比べた場合、図書館OPACは「もしかして○○では?」などと返して
くれるわけでもなく、検索語に近ければ表示してくれるわけでもない。一字
でも違えば「ありません」で終わってしまうからだ。
 だから図書館システムも、もっとラフに検索できるようになって欲しい。
…ということを、少し前にポット出版ホームページの「朝焼けの図書館員」
http://www.pot.co.jp/asayakeに書いている。

 僕自身、図書館利用者としての立場で考えると、GoogleやYahooで検索し
たときに、検索者の近くにある図書館の蔵書がヒットするようになれば便利
ではないかとも思っている。

              *  *  *

 外部から図書館に利用者を導くのとは逆に、図書館サイトに来た利用者を
外部の情報源にナビゲートするための導線について考えてみた。

 事の発端は、図書館カウンターに何台か置いてある業務用のパソコンのブ
ックマークがバラバラで使いにくいから、何とかしようという話が職場で持
ち上がったことだが、そこからリンク集をつくろうという話になり、さらに
ソーシャル・ブックマーク(SBM)を使おうという話に発展した。

 SBMとリンク集の違いは、他の人のブックマークと繋がることや、閲覧し
たページの感想にコメントがつけられることだ。
 この違いを活かして何か面白いことが出来ないかと考えていたところ、郡
山女子大学図書館が既にSBMによるパスファインダー(※)の試験運用に入っ
ていることを知った。http://library.koriyama-kgc.ac.jp/path/

 ※パスファインダー=ある特定のトピックに関する資料や情報を収集する
           手順をまとめたもの。従来はリーフレット形態が多
           かったが、最近はWebで公開されるケースも多い。

 郡山女子大のSBMパスファインダーは、利用者の学習・研究支援ツールと
なるよう、その情報源が必要な場面をカテゴリーに、主題をタグにそれぞれ
設定している。
 実際に見なければカテゴリーとかタグって何だ?というところからイメー
ジしにくいと思うが、カテゴリーは分類とか分野みたいなもの、タグはキー
ワードとか件名みたいなものと考えると、何となく理解しやすいかもしれな
い。
(本当はカテゴリはカテゴリ、タグはタグとしか言いようがないのだけれど。)
 タグを選ぶとその主題に関するパスファインダーが幾つも提示される仕組
みは斬新だし、推薦機能(推薦数が多いほど上に表示される)とRSS配信機
能があるところも、一般的なパスファインダーとは大きく違う。

 大学にはシラバス(講義・授業の大まかな学習計画)があるので、イメー
ジが描き易い面もありそうだが、公共図書館がそれに近いことをやろうとす
ると、カテゴリーやタグ以前にそもそも登録サイト選びの段階から五里霧
だ。
 ストイックに選びすぎると平凡なリンク集になってしまうし、逆にタグや
カテゴリーを野放図に増やしてしまうと、いっそQooqle(※)でいいじゃない
か、という結論になってしまう。

 ※Qooqle=面白そうな機能満載で、ちょっとここでは紹介しきれないけれ
      ど、要するに総合検索サイト。
      サービス開始からもう3年になるので、使ったことのある方も
      多いかもしれないが、はてなブックマークのブクマ件数の多い
      ものほど大きく見せるタグクラウドが1つの特徴。
       http://qooqle.jp/

 そこで最初は一次情報データベースをブックマークし、参考書架的なSBM
つくることから始めることに決め、構築に着手することにした。
(この分野の草分けである郡山女子大学図書館の和知さんにご連絡したところ
即座に貴重なアドバイスを頂くことができた。)

 SBM最大のメリットでもある「ソーシャル」という要素を活かすには、利
用者がサイトを評価し、フィードバックするための仕掛けが欲しい。
 郡山女子大学図書館では、図書館のサーバー上にSBMを構築しているので、
登録サイトの評価やコメントなども大学関係者のみに制限するといったこと
が可能だ。
 公共図書館でも、図書館利用者番号とパスワードで個人認証を行い、責任
の所在がはっきりした形でコメントを書いてもらう方が良いと思うが、サー
バーを用意してSBMを構築するための予算を確保できる状況ではない。
 そこで手始めに「はてなブックマーク」(以下「はてブ」)で試してみるこ
とにした。

 「はてブ」は画面がかなり自在に変更できるのが魅力的だし、当館の利用
者限定にはできないものの、ユーザー数そのものが多いので「ソーシャル」
な要素にも期待できそうだ。
 だが、コメントや評価機能によって「炎上」するケースもあるようだし、
そもそも「はてブ」自体がパスファインダーとしての利用を前提にしたもの
ではないから、その機能や利用規約の範疇で、どこまで思い通りにできるの
か、いましばらくの試行錯誤が必要だろう。

 最終的に利用者向けに「はてブ」を使用するかは未定だが、仮にこれが実
現すると、「はてなダイアリー」を使った雑誌特集名紹介と資料紹介、「ブ
クログ」を使ったイベント棚紹介に続き、僕の勤務先では3つめの外部無料
サービスの利用になる。

 新規事業に容易に予算が付くご時世ではない。
 だが図書館としては、そこで何ができるのかを知ってもらい、必要に応じ
て選択して欲しい。そんな総合的な資料調査の身近な窓口として広く認知さ
れるには、サービスのパーソナライズやソーシャルな要素を取り込むことが
効果的だと思う。
 もちろん公的機関が行うサービスである以上、安全性には特に注意してい
るが、今はともかく「図書館でこんなこともできるんだ」ということを、少
しでも多くの人に知ってもらえれば良いと思っている。
 だから、こうしたサービスが有料化したり閉鎖になったらどうするんだ?
という質問を受けることもあるが、今のところその点は、あまり気にしてい
ない。

 国立国会図書館デジタルアーカイブポータル(PORTA)は、1年以上前から
利用者がタグやコメントをつけられるSBM機能を実装している。
 そればかりか、ユーザー属性ごとの検索対象の設定やRSSフィードの登録、
「この資料を閲覧したユーザーは他に以下の資料を閲覧しています」という
検索履歴に基づくレコメンド機能まで実装済だ。
 地域の情報コミュニティ機能として市町村立図書館にも、こういう利用者
参加型の仕組みが欲しい。
 だが「国会図書館がこうだから」などと言って一足飛びに予算がつくはず
もないので、地道にやれることから手を出して、理想に近づけるよう頑張る
しかない。
 「はてなダイアリー」も「ブクログ」も「はてブ」もそうだが、手軽に利
用できる材料が増えていることは、低予算の図書館にとっては追い風だ。
まだまだ試したいことは山ほどあって、時間が足りない。
こういう状況は、ちょっと嬉しい。

田圃
 『月刊地方自治職員研修』という雑誌の3月号特集企画「これからの図書
 館(仮)」に「利用者サービスから見るこれからの図書館(仮)」を書きます。