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■ 「図書館の壁の穴」/ 田圃
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第41回 場としての図書館

インターネットや電子書籍の充実が、書店や出版界ばかりか図書館の存在に
もいよいよ影響しはじめそうな2012年。
ここは座して待つのではなく、積極的に何か仕掛けてみたい。

公共図書館が必要だと多くの人に思ってもらうには、無料で本が借りられる
場だというだけでは、遠からず行き詰る。
もう新刊書店の店頭にないような本や、貴重な郷土資料も図書館がしっかり
保存しているということの重要性や、市民の情報要求に即座に応えられる司
書の必要性、さらには読書推進とか文化がどうだと言ったところで結局は財
政難なのだから、ない袖は振れないと首長や当局に言われてしまったらお終
いだ。

そこでひとつ考えられるのは、やはり場としての図書館の価値を高めること
ではないかと思う。

例えば、千葉県立西部図書館の「まなびトーク」や世田谷区立図書館の「学
びのプレゼン〜学習活動発表会」のような、図書館資料を活用して調べ、そ
の成果を図書館で発表する試みは面白いと思う。
また、アメリカでは図書館資料を使って地元の歴史に関するWikipediaの記
事を書くイベントを行った事例もあるらしい。

 ○アメリカの事例はこちら
  http://current.ndl.go.jp/node/19871

こういうことも、今後真剣に企画してみても良いと思う。

それから昨年の10/30に秋葉原で開催され話題を呼んだビブリオバトルも興
味深い。

 ○ビブリオバトル公式サイト
  http://www.bibliobattle.jp/

既に書店や図書館での開催事例もあるので、運営のノウハウを教えてもらう
こともできるだろう。
年末、Code4Lib JAPANの大忘年会の席で、2011年首都決戦で審査員特別賞を
受賞された「ビブリオお兄さん」こと常川真央さんのデモンストレーション
を間近で拝見させていただいたが、あれは面白かった。
こういった参加型のイベントを考えても良いだろうと思う。

本と人だけでなく、本を介して人と人も繋ぐことができる、そんな可能性の
ある場に図書館が発展するのも、地域の情報拠点として存在感を発揮できる
ひとつの方向性ではないかと思う。

              *  *  *

ところで、長年図書館で働いている私だが、図書館の資料はやっぱり探しに
くいんじゃないかと思うことが多い。
例えば、漠然としたイメージで写真集を探そうと思った場合には、OPACはほ
とんど役には立たない。
カウンターで図書館員に質問するにしても、漠然としたイメージを言語化
るのは難しいし、そもそも図書館員に質問すること自体、結構ハードルが高
いことだろうとも思う。
現に「利用者の声」というご意見箱に、図書館員を「店員」と書いてこられ
る方も多い。
そういう認識の方は、レファレンスサービスの存在も恐らくはほとんど知ら
ないだろう。

図書館で十数年働いている僕でもこう思うくらいなのだから、初めて図書館
に来た人は、どこから手を出せば良いのか途方に暮れることもあるだろう。

だがこれについては、遠からず検索システムの機能向上でかなり補えるのか
もしれない。
郷土資料などは、自館の目録データをどんどん自力で整備しないと始まらな
いと思うが、それ以外に関しても例えばNDLやAmazonGoogleAPIを使って
OPACと連携させるなど、何かしら検索精度の向上策はありそうにも思える。

いまは誰もが検索できるスキルを備えているわけではない、という声もあり
そうだが、先々を考えると、そこはそう心配しなくても良いのかもしれない。
システムも進化するし、日本のインターネットの普及率を考えると、いまの
子ども達が成人するころには、Googleのような感覚で手軽に検索できるよう
になるだろう。

では今現在の検索端末の操作をどうするのかと問われれば、図書館員が支援
するとしか言いようがない。
でも、検索端末の操作支援が図書館員の恒久的なメインテーマにはなり得な
い。
いまは、いずれ大多数の人が簡単に探せるようになるための過渡期なのだと
思う。
バックヤードでのデータの整備や調査方法についての情報収集など、求めら
れた本により高い確率でナビゲートするために、いまやらなきゃいけないこ
とは他にいくらもある。

              *  *  *

本にたどり着く手段も、場としての図書館の機能も、何もかもが過渡期だか
らこそ、今はいろいろ試行錯誤ができる。

もちろん税金で運営しているのだから、費用対効果の検討や実施したことの
説明責任も当然伴うわけで、これは苦しくも楽しい時代だと個人的には感じ
ている。
だから今年も、失敗を恐れずにいろいろなことを試してみたいと思う。

田圃
    http://d.hatena.ne.jp/t_rabi
    今月末の茨城県図書館協会の中堅職員研修で、少しだけ登壇します。